軍事作戦(読み)ぐんじさくせん

改訂新版 世界大百科事典 「軍事作戦」の意味・わかりやすい解説

軍事作戦 (ぐんじさくせん)

軍隊が与えられた任務を遂行するために行う対敵行動の総称で,戦闘行動だけでなく,これに付随する情報(偵察),機動宿営警戒後方補給,整備,衛生等)の諸活動を含むものであって,戦略・戦術を具体化したものといえる。通常は単に〈作戦〉と称する。英語ではoperationであるが,operationの意味はさらに広く,このほかに軍務や教育訓練等をも包含している。また,慣例として〈作戦〉は,師団以上の戦略部隊(ある程度の期間,独立して戦闘行動を行う能力のある部隊)について使用し,連隊以下の部隊にあっては〈戦闘〉という。自衛隊は,〈作戦〉を〈行動〉と読みかえている。

 作戦を有効適切にするため,通常,まず〈作戦構想〉を定め〈作戦計画〉を策定する。そして,これを具体的に実行するため〈作戦命令〉を発令し,〈作戦行動〉を行う。

作戦についての基礎的な骨格を定めるもので,作戦計画策定の基礎となる。この構想には,定まった型はないが,方面軍以上のような大部隊にあっては,作戦の目標を定め,戦場の決定,作戦期間,作戦に要する補充および補給の概要等を,国防計画に示す諸施策に基づいて策定する。軍団や師団のレベルになると,敵情の見積もりや自軍の運用構想の骨子など,ほぼ作戦計画に近いものとなろう。

作戦の構想に基づいて作戦計画を策定する。作戦一般の目的は,できるだけ早期に敵を撃破することにあるから,計画もこの線に沿って作成されることはいうまでもない。作戦計画は,幕僚の作戦見積もり,地域見積もり,人事見積もり,情報見積もり,兵站(へいたん)見積もりを総合し,任務を達成するための指揮官の構想,部隊の運用,およびこれに伴う諸作戦活動の準拠となる事項を定めるものである。作戦計画は,その思考の順序を合理的にし,かつ落ち度がないように,一定の型式に従って作成するのがよいとされている。この型式は,また容易に命令化できるように,作戦命令の型式に準じている。

 標準的な作戦計画の作成過程は次のとおりである。(1)状況の総合的な評価と判断。ここでは敵情だけでなく,自軍の関係部隊,配属・欠除部隊,地形,気象など広い範囲にわたって情勢を総合・整理する。幕僚の作成した情報見積もりはこの段階で活用される。(2)作戦指導の構想。指揮官の作戦(戦闘)指導の構想を,方針,指導要領に分けて作成する。方針は任務達成のため,作戦の終始を通じて行動の準拠となるものであるから,その大綱を簡明に記すことが重要である。指導要領は部隊を運用する骨子となるもので,方針をさらに掘り下げ具体化したものである。(3)各部隊の任務。作戦の各段階における部隊の任務を明らかにするものであるが,戦闘の初期段階を除いては任務に融通性をもたせ,状況の変化に対応しうるよう,あまり細部にわたらないように配慮する。(4)人事・兵站事項。(5)指揮・通信。その他付属の計画。

指揮官が自己の意図を部下部隊に明示し,受令部隊に任務を与え,その実行を命ずるもので,これによって作戦計画が具体的に遂行される。受令部隊全部に合同した命令(合同命令)を与えるか,または一部もしくは全部に別個の命令(各別命令)を与えるかは,命令下達のために割きうる時間や保全上の配慮によって決める。部隊に全般の状況を知らせ,かつ部隊相互の協同を円滑にするためには,合同命令がよいので,なるべくこの方法によることとされている。

命令を具体化し,実行すること。作戦行動をとるに当たって最も重要なことは,状況の変化に対応しうるように作戦を指導することである。作戦行動は,相手があるので,予期していたように進展するとは限らない。指揮官はたえず状況を把握して,予期しないことが起こっても機を失せず必要な処置をとりうるよう配慮することが肝要である。このため,地上部隊の戦闘では,十分な予備兵力を持つことが,指揮に融通性を持たせ,作戦行動を成功させる一つの要件となってくる。海上および航空作戦にあっては,予備兵力を持つことよりも所望の時機と場所に最大限の戦力を集中することに留意する。次に,受令部隊が命令どおり行動しているかどうかを監督することが必要である。

 次期作戦の構想を練り,作戦計画の作業をすすめることも大切である。なるべく早期に先行的に次期計画をたてることは,部隊が大きくなるほど強く要求されることである。

最も一般的なものは,戦闘の形態による分類で,攻撃作戦,防御作戦,追撃(退却)作戦等に分けられる。電撃作戦や突破作戦,迂回作戦などは,戦闘の形態のもう一つの側面からみたものである。また,特殊作戦,山岳作戦,渡河作戦などもある。航空作戦や対潜水艦作戦,空挺作戦等は作戦に参画する部隊によって呼称されたものである。さらに,もっと広範囲の特定の作戦に固有の名称をつけることがある。例えばオーバーロード作戦(ノルマンディー上陸作戦),ハワイ作戦,インパール作戦等である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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