改訂新版 世界大百科事典 「イチョウガニ」の意味・わかりやすい解説
イチョウガニ
Cancer japonicus
甲幅10cmに達する甲殻綱イチョウガニ科のカニ。甲は扇形に近く,その名のとおりイチョウの葉を思わせる。額は3本の突起,甲の前側縁は眼窩(がんか)外歯を含めて12本の突起からなり,後側縁に小さな突起が一つある。甲域は胃域,心域,鰓域(さいいき)が隆起し,それぞれさらに細分されている。イチョウガニ属Cancerはリンネ以来の由緒ある学名で,当初はカニ類がすべて含まれていた。この語は癌をも意味するが,皮膚にできた癌のようすがカニの甲面のでこぼこから受ける印象に似ているためといわれる。本種は東京湾から土佐湾にかけての水深30~100mに少なくなく,韓国の済州島からも記録されている。食用とされることはないが,ヨーロッパ産のC.pagurus,アメリカ大西洋岸産のC.irroratusとC.borealisはいずれも甲幅15cmを超える大型種で水産上重要である。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報