改訂新版 世界大百科事典 「イビュコス」の意味・わかりやすい解説
イビュコス
Ibykos
前6世紀中期の古代ギリシアの詩人。生没年不詳。シチリア島レギオンの生れで,前560年ころがその壮年期にあたると伝えられる。生地の僭主にさせられることを嫌って,当時サモスの僭主で文芸保護者として名高かったポリュクラテスのもとに身を寄せたこと,また盗賊の手にかかって殺されたが,殺害現場にいた鶴のために犯罪が露顕し,犯人らは刑を受けたということがエピソードとして伝わっている。この中で,彼がポリュクラテスの宮廷と関係があったことは,断片に歌われている内容からも根拠があるように思われる。鶴の故事はJ.C.F.vonシラーの譚詩に採られている。文学史的には,アルクマンを創始者とする〈合唱隊歌〉という文芸ジャンルを発展させ,前6世紀後半から前5世紀前半にかけての最盛期を準備した詩人として位置づけられる。いわゆる三部形式による構成は,盛期合唱隊歌構成上の大きな特徴であるが,イビュコスの断片の一つは,最近相次いで公表された,アルクマンやステシコロスの同形式の歌の断片と比して,盛期合唱隊歌の完成度にきわめて近い韻律構成を見せている。
執筆者:安西 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報