日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
インターネット・ホットラインセンター
いんたーねっとほっとらいんせんたー
Internet Hotline Center Japan
日本国内における、インターネット上の違法・有害情報などの通報窓口。英語表記の頭文字をとってIHCと略称される。一般から提供された情報などについて監視し、警察などへ通報するほか、サイト管理者やプロバイダー(接続事業者)に削除を依頼する。2006年(平成18)から警察庁の委託を受け、財団法人インターネット協会、2016年から一般社団法人セーファーインターネット協会、ついで2021年(令和3)からシエンプレ株式会社が管理・運営している。ネット上の違法・有害情報は膨大で、警察によるサイバーパトロールには限界があるため、広く気軽に情報提供してもらう民間組織として発足した。警察とは異なり、匿名での通報にも対応可能。2007年からインターネットにおけるホットラインの国際的連合組織であるINHOPE(International Association of Internet Hotlines)に加盟し、海外のホットラインセンターとの情報連携を行っているほか、アメリカの民間機関などに委託して海外にサーバーがある場合も削除を依頼している。ただし強制力はない。
IHCが監視対象とするのは、違法情報と有害情報である。違法情報は、(1)わいせつ関連情報(わいせつ電磁的記録媒体陳列・児童ポルノ公然陳列、売春目的等の誘引、出会い系サイト規制法違反の禁止誘引行為)、(2)薬物関連情報(薬物犯罪等の実行または規制薬物の乱用を公然・あおり・唆す行為、規制薬物の広告、指定薬物の広告、指定薬物等である疑いがある物品の広告、危険ドラッグに係る未承認医薬品の広告)、(3)振り込め詐欺等関連情報(預貯金通帳等の譲渡等の勧誘・誘引、携帯電話等の無断有償譲渡等の勧誘・誘引)、(4)不正アクセス関連情報(フィッシング行為、不正アクセス行為を助長する行為)である。有害情報は、人を自殺に誘引・勧誘する情報(集団自殺の呼びかけなど)のほか、銃器等の譲渡や爆発物の製造を直接的、明示的に請負・仲介・誘引する情報である。
IHCは有識者会議の提言に沿ったガイドラインに基づき、監視対象をたびたび変更している。発足当初は、臓器・人身売買、痴漢行為などを直接的、明示的に請負・仲介・誘引する有害情報も監視対象としたが、政府の行政改革推進会議から官民の役割分担の明確化を求められ、2016年度から、違法情報のみを国の委託する監視対象とした。しかし、2017年に起きた神奈川県座間(ざま)市9人殺害事件を受け、有害情報のうち、自殺を誘う情報を監視対象に含めたほか、2022年の元首相安倍晋三(あべしんぞう)銃撃事件を機に、銃器や爆発物の製造に関する情報も監視対象に加えた。なお、2021年にセンターが受理した通報は40万5572件で、4万1944件が違法情報と判断された。
[矢野 武 2023年1月19日]