当事者の一方(請負人)が引き受けた仕事を完成し,他方(注文者)がこれに対して報酬を支払うべきことを内容とする契約(民法632~642条)。雇傭契約,委任とともに,他人のために労務を提供することを内容とする労務供給契約である。請負の例として,土木・建築に関する建設工事契約,造船契約,工場設備・プラント類の建設契約,貨物・旅客の運送契約,注文服の製作契約などがある(ただし,運送契約については商法に特別の規定が設けられている)。これらの契約は,契約書の作成される場合が少なくないが,法律的には契約書は契約成立の要件ではなく,当事者間の合意によって成立する。契約によって請負人は,所要の労務・作業を行うなどして,〈引き受けた仕事の完成〉という一定の結果をもたらす義務を負い,注文者はその結果に対して報酬を支払う義務を負う。つまり,請負では結果と報酬とが対価関係にあり,過程自体は法律的評価の対象とならず,その点で他の労務供給契約と区別される。たとえば,医師と患者との〈診療契約〉は一般に委任と解されている。外科手術を行う医師は,単に手術成功のために医学上必要な努力を尽くす義務を負っているにすぎず,手術の成功を約束しているわけではない。したがって,結果的に手術が失敗したとしても(医師のミスによるときは別論である),医師の労務に対して報酬が支払われるべきである。これに比して,たとえば,橋梁の建設請負人は設計図書に従った橋梁を完成するという結果を約束しているものであり,架橋に失敗した場合には(設計上の誤りは別論として),請負人の労力・努力は報酬の対象とならない。このように結果のみを規準として評価し,中間過程を評価しない点に請負の特色がある。そこで,建築工事途中に台風によって建築中の建物が破損するというような事故があったとしても,請負人の義務はなんら免除・軽減されるものではなく,当初の報酬で仕事を完成しなければならない。この意味で請負はリスクを伴う契約であるということもできる。
請負の対象となる仕事には,物の製造・製作が多いが,運送がそうであるように,勿論,それだけに限定されるわけではない。たとえば,俳優による舞台への出演契約というような無形の仕事も請負の対象となりうる。しかし,とくにこのような無形の仕事に関する労務の提供は,仕事の完成が何を意味するのか時として確定しがたく,それに伴って,委任・雇傭との区別が不明確となる。このような場合には個々の契約内容を検討して,契約時の当事者の意思あるいは取引の慣行などをも考慮して,契約の法律的性質を決定することが必要となる。このように,個々の契約がどのような法律的性質の契約に属するかについては,学説上さまざまな考えがある。
土木・建築に関する建設工事契約は,請負に該当する代表的な契約類型に属するとされ,社会経済的に重要な役割を果たしている。法律的にも建設業法などによって特別の内容および行政法上の規制がなされている。建設工事の請負人である建設業者は,建設大臣または都道府県知事から建設業の許可を受けなければ営業することができない(建設業法3条)。許可は,その建設業者の営業しようとする建設工事の内容に応じて,土木に関する総合的工事のための土木一式工事業,建築に関する総合的工事のための建築一式工事業という一式工事業のほかに,左官工事とか電気工事というように職種別に区分された工事業に対して与えられ,3年ごとに経営状態等を審査のうえ更新される。契約の締結は,国・地方公共団体が注文者となる公共工事については原則として建設業者間の競争入札によってなされる(会計法29条の3,地方自治法234条)。建設業法は建設工事契約の締結に当たって,強制力はないけれども,契約書の作成を義務づけており,公共工事契約については建設大臣の定めた公共工事標準請負契約約款,民間工事契約については日本建築学会ほか3団体の定めた工事請負契約約款(通称,四会連合約款)が民法の規定よりもより詳細な規定を設けており,それぞれの分野で代表的な契約書として広く使用されている。しかし建設業者が工事に伴うリスクを回避するため,その前近代的経営体質と相まって安易に当初合意された代金額の値増しを要請するなど,民法の定める請負の規定とは合致しない実態があり,現在行われている建設工事契約は請負には該当しないという学者の意見もある。
→建設業法
執筆者:栗田 哲男
土木工事,家屋建築,船舶建造などにおいては請負が一般的であるが,とくに問題となるのは,企業がその業務遂行上必要な仕事の一部または全部を他の企業に委託する場合である。近代資本主義的経営においては,資本家が労働者を直接雇用し,その直接的監督下で,業務を遂行させるのであるが,こうした近代的資本賃労働関係とは別に,仕事そのものを委託することにより,労働者の雇用・監督を他者に委託する形態が広く存在したのである。その最も典型的な事例として古く16世紀からイギリスの炭鉱において存在したバッティ・システムbutty systemがある。この場合には,炭鉱の所有者はトン当りいくらで石炭の採掘を請け負わせ,請負人は炭鉱所有者との契約価格と時間賃金で雇った労働者に支払う賃金額との差額を得ることになる。
請負は,仕事そのものの完成を引き受ける点において,労務の提供を目的とする雇傭契約と異なり,また職業安定法44条で禁止している労働者供給事業とも異なる。しかし,現実にはその境界はきわめて微妙であり,請負の形をとった労務供給による中間搾取が発生する危険がつねにある。また大企業がその業務,工程の一部を主として中小企業に外注,委託する,日本に広範に存在する下請制も請負の重要な一形態である。近年,企業が行う業務内容が複雑,多様になってきており,またサービス経済化の進展に伴って,そうした業務を専門に引き受ける企業が発生,拡大しているため,建物・施設の維持・管理,コンピューターの管理,運転,事務処理など多様な分野で外部委託を行う企業が増えており,請負の新たな形態として注目されている。
執筆者:亀山 直幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
当事者の一方(請負人)が、ある仕事を完成することを約し、相手方(注文者)がそのできあがった仕事の結果について報酬を払うことを約することにより成立する契約(民法632条~642条)をいう。仕事の内容は、家屋の建築や洋服の注文など有形なものから、講演、演奏、物の運搬など無形のものも含まれる。請負は成し遂げられた結果を目的とする点で、いかに労務が提供されても期待する結果が得られなければ、請負人の債務は履行されたことにならないから、同じく労務を提供する契約である雇傭(こよう)(雇用)、委任とは区別される。
[平井一雄]
洋服店に注文して服をつくらせる場合を例にとると、注文を受けた洋服店は手持ちの布地を用い、できあがった洋服を代金と引き換えに注文者に渡す、いいかえれば所有権を移すという関係ともとらえることができる。すなわち、仕事の完成という面からみれば請負であり所有権移転という面でとらえれば売買であるといった、請負と売買の両方の性質を兼ね備えるような契約を製作物供給契約という。しかし、このような特殊な類型の契約を認める必要はなく、取引の性質によって、請負か売買かの一方に区別してとらえれば足りるとする見解が有力である。
これに従えば、請負と売買は次のように区別される。(1)建物その他土地の工作物の建造はすべて請負である。ただし、建売り住宅の購入や、一定の規格によるタイプの一つを選択して販売する場合は売買とみられる。(2)製作された物の個性にとらわれず不特定物として取引の対象とした場合は、材料を製作者に供給して製作された場合でも売買とみなされる。(3)これに対して、特定のサイズ、タイプ、設計に従ってつくられた場合は請負となる。
[平井一雄]
請負人は、契約に定められた内容の仕事を完成する義務を負う。したがって、請負人の技術や才能などに重きを置いて契約がなされた場合は別として、仕事の完成に要する労務はかならずしも請負人自身が提供する必要はなく、注文者の承諾なく第三者に請け負わせること(下請負・下請け)ができる。その場合、下請負人の故意・過失については、自己の責に帰すべき事由として責任を負わねばならない。
[平井一雄]
完成した仕事について、瑕疵(かし)(欠陥や約束と違う点など)があった場合は、請負人は注文者に対して、たとえその瑕疵が自らの責に帰すべき事由によって生じたものでなくとも、次の担保責任を負う。
(1)瑕疵修補義務 注文者は瑕疵を修補することを請求できる。ただし、瑕疵が重要なものではなく、修理するのに過分の費用を要するときは認められない。
(2)損害賠償義務 瑕疵によって注文者が損害を被ったときは、瑕疵の修補とともに、あるいは修補のかわりに損害賠償を請求できる。
(3)契約の解除 瑕疵が重要で、そのために契約をした目的を達せられないような場合には、注文者は契約を解除することができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、瑕疵がいかに大きくとも解除できない。
以上は、仕事がいちおう完成した場合の特則であり、仕事が完成される以前に、たとえばその完成が非常に遅延していることを理由に解除することは、債務不履行の一般原則に従って許される。これらの担保責任は、通常の請負では、仕事の完成または目的物の引き渡しのときから1年、土地の工作物については引き渡しのときから5年、堅固な工作物については10年、地盤の瑕疵については5年で消滅する。ただし、請負人は以上の瑕疵担保責任の内容や存続期間の軽減などについて特約をすることができる。
[平井一雄]
注文者は、請負人に対して報酬(請負代金)を支払う義務を負う。報酬があらかじめ定額で定められているときは、原則として、あとになって請負人はその増額を要求できない。また、報酬は後払いが原則であるが、特約で別に定めることができる。
[平井一雄]
完成した物の所有権の帰属とその移転時期については、注文者が材料の全部またはその主要部分を提供したときは、原始的に注文者に所有権が帰属する、請負人が材料の全部を供給したときは、特約のない限り所有権は請負人にいったん帰属し、引き渡しによって注文者に移転する、とするのが判例である。危険負担については、目的物が完成前に滅失毀損(きそん)してもなお請負人の完成義務は消滅しないとされる場合が多い。仕事完成後引き渡し前の滅失毀損については、請負人が危険を負うとするのが通説である。なお建設請負では、以上述べた諸点と異なった特約がなされるのが普通であり、トラブルを避けるために、契約書を交わすことが望ましい。
[平井一雄]
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…またアメリカでの管理の研究はきわめて実践的な性格をもって登場し,展開されてきたので,その側面にも光をあてながらその動きをみてみよう。
[内部請負制]
まず工場レベルに焦点をおくと,広義の機械工業では産業革命以降かなり長期にわたって内部請負制subcontract systemが採用されていた。それは,かつて熟練労働者であった者のなかで,それなりに能力があって内部請負人となった者が資本家との間で契約を結び,一定種類の作業を一定量,一定期間,一定価格で請け負って完成させるものである。…
…建設業成立以前の社会では,国家が被征服民族を奴隷として使用して建設工事に従事させたり,住民に夫役を課すなどの方法がとられてきた。 日本において請負業としての建設業の萌芽がみられたのは江戸時代である。江戸幕府による参勤交代制が確立されたため,江戸に全国の大名屋敷が集中し,このことが建設技能者の増大と建設工事の請負を主業とする者の発生の契機となった。…
※「請負」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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