改訂新版 世界大百科事典 「ウィーン創世記」の意味・わかりやすい解説
ウィーン創世記 (ウィーンそうせいき)
Wiener Genesis
古代末期に制作されたギリシア語《創世記》の彩飾写本。ブドウ酒色に染めた羊皮紙に銀で文字を記した〈紫羊皮紙群〉写本の最古のもの(写本画)。ウィーンのオーストリア国立図書館に所蔵されているため,この名がある。かつては192点の挿絵で飾られていたと推定されるが,今日ではそのうち48点が残るにすぎない。現在残る26葉のうち,24葉の各ページの下半分にアダムとイブの原罪からヤコブの死に至る諸場面が描かれている。これらの挿絵は,《創世記》挿絵の成立時におけるヘレニズム的絵画の伝統をよく伝え,図像学的にはユダヤ的要素も含んでいる。制作地は,アンティオキア,コンスタンティノープル,アレクサンドリアなど諸説がある。制作年代は6世紀中葉と推定される。
執筆者:越 宏一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報