日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウミタル」の意味・わかりやすい解説
ウミタル
うみたる / 海樽
原索動物門尾索綱環筋目に属する海産浮遊動物の総称。体は一般にビヤ樽形で長さ10ミリメートル前後。箍(たが)のように体を取り巻く8本の環状筋の収縮により前後に移動する。前端にある入水孔(口)に続き体前半部を占める咽頭(いんとう)の後部壁には、長楕円(ちょうだえん)形の多数の鰓裂(さいれつ)が左右各1列、前後に帯状に並ぶ。体後半部を占める排出腔(はいしゅつこう)には肛門(こうもん)や生殖孔が開口し、体後端にある大きな出水孔で外界に開く。生活史は次のようにきわめて複雑である。雌雄同体の有性個体から生じた胚(はい)は有尾幼生を経て、9本の環状筋と背芽茎(はいがけい)と腹芽茎および4対の鰓裂を備える無性個体となる。この腹芽茎の先端から分節した無数の小芽体は体の右側を通って背芽茎に集積し成長する。これら小芽体の一部は芽茎を離れ、無性個体と酷似した構造をもつ育体となる。育体は離脱時にすでに背芽茎から移行し分節していた多数の有性個体小芽を育成し、随時これを遊離させる。温水域外洋を中心に全世界に広く分布する。
既知の約20種のうち、日本近海には少なくとも3種がすむ。このうち沿岸水域にも普通にみられるトリトンウミタルDolioletta gegenbauri var. toritonisは大群をなすことがある。
[西川輝昭]