動物分類上の1門。脊索が生ずるところから脊椎動物門と合わせて脊索動物門とされることもあり,無脊椎動物の中でもっとも脊椎動物に近い動物群である。すべて海産。この動物群に共通している性質は,終生あるいは幼生期に消化管の背側に脊索が存在し,咽頭(いんとう)部の両側に鰓孔(えらあな)の列があり,神経がときに神経管をつくり,内柱をつくることなどである。このような性質は脊椎動物の発生中に現れたり,ある種の脊椎動物と共通している。単体あるいは群体をつくり,終生浮遊生活をするもの,他物に着生して生活するものなどがある。約2500種が知られている。
原索動物は脊索の状態によって尾索類Urochordataと頭索類Cephalochordataの2綱に分けられる。尾索類にはホヤ目Ascidiacea,サルパ目(タリア目)Thaliacea,尾虫目(オタマボヤ目)Appendicularia,火体目(ヒカリボヤ目)Pyrosomataの4目が含まれる。各目に含まれるホヤ,サルパ,ウミタル,オタマボヤ,ヒカリボヤなどはそれぞれ形態が非常に違っているが,ホヤ目とサルパ目,火体目には幼生の時期のみ,そして尾虫目は成体でも脊索が通っている尾をもっている。
ホヤ類の幼生は,尾の部分に脊索が通っているオタマジャクシ形で浮遊生活をしているが,他物に付着して変態が始まると,脊索と尾の筋肉がだんだん頭の部分に吸収され,親の形になったときはまったく見られなくなる。体はセルロース類似の物質からなるじょうぶな外皮に包まれ,上端に入水孔,側方に出水孔が開いている。体内には大きな鰓囊(さいのう)という袋があり,その腹中線に沿って内柱がある。アカボヤやマボヤは食用になり,養殖もされているが,大部分のものは諸施設に付着して害を与える。サルパ類の体は樽状や円柱状で,7~20本の環状筋が体の周囲を取り巻くものと,一部切断されているものとがある。体の前端に入水孔,後端に出水孔が開いていて,一生の間浮遊生活をする。魚類の天然飼料になる。尾虫類は親でもホヤ類の幼生によく似た形態で,脊索が通っている長い尾をもっている。体全体が包巣(ほうそう)という薄い被囊に包まれており,強い刺激を受けたり,古くなると脱ぎ捨てて新しくつくる。包巣は餌のプランクトンをとったり,定方向運動に不可欠なものである。火体類は多くの個虫が入水孔を外側に向けて並んで円筒形の群体をつくり,大きなものでは長さが20cmにもなる。浮遊生活をする。
頭索綱は魚の形をしたナメクジウオで代表される。成体でも脊索が体の全長にわたってのび,その上を脊髄が走っている。しかし,頭がないので脳も目も発達しておらず,閉鎖血管系であるが心臓はない。体側に64筋節が並んでいる。この筋肉の働きで敏しょうな行動ができる。浅海の砂の中に潜り,体の先端だけを水中に出して生活するが,ときに水中を泳ぐこともある。
執筆者:今島 実
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脊索(せきさく)およびその背方に位置する中空の神経管、鰓裂(さいれつ)(咽頭(いんとう)側壁の裂け目)、それに咽頭腹正中を縦走する内柱を、生活史の少なくとも一時期にもつが、脊椎(せきつい)は終生もたない海産動物の総称。脊索を尾部にもつもの(尾索類Urochordata=被嚢(ひのう)類Tunicata)と、それが体全長にわたるもの(頭索類Cephalochordata)とに大別される。冒頭にあげた諸特徴のうち、内柱は脊椎動物の甲状腺(せん)の先駆とみなされ、また脊椎を除くほかの特徴は脊椎動物と共通する。このため、尾索、頭索、脊椎の3動物群を系統的に近縁とみなして、脊索動物門Chordataの3亜門にそれぞれ位置づける近年の傾向があるが、前二者を原索動物門Protochordataとして独立させる体系もなお用いられている。かつては、半索動物をも原索動物の一員とみなしたが、前者の口盲管と後者の脊索との相同性が否定され、現在では原索動物から除外している。なお、近年、微化石コノドントを体内にもった動物の化石が得られ、これを脊索動物とみなして錐歯索動物亜門(すいしさくどうぶつあもん)Conodontochordataをたてる説、あるいは従来棘皮(きょくひ)動物に位置づけられてきた海果類(化石)を、すべての脊索動物の祖先形とみなしてカルキコルダータ亜門Calcichordataをたてる説が提唱されているが、前者は異論が多く、後者もまだ大方の支持を得るに至っていない。
脊索の構造には多様性が著しく、原索動物の系統進化に関する種々の議論をよんでいる。すなわち、頭索類では、脊索は筋肉性で脊髄神経の支配を受ける。一方、尾索類においては、ホヤ類幼生のあるものや尾虫類では、細胞外基質を扁平(へんぺい)単層上皮が包み込む構造であるが、マボヤやウミタル類の幼生では、一列に配列した細胞からなる。なお、脊椎動物では一般に多数の空胞細胞から構成される。
[西川輝昭]
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…しかし,これらを二つの門に分ける見解もあり,ここでは後者に従っておく。(a)はっきりした頭がなく,体は胴と舵状の尾からなり,軟骨または硬骨の脊柱や頭骨はないもの 〈原索動物門〉が含まれ,これに脊索が幼生の尾部にしかない被囊(ひのう)亜門と,脊索が成体にもあり,体の全長にわたっている頭索(とうさく)亜門がある。被囊亜門はオタマボヤ,ホヤ,サルパの類で,約2500種があり,海生。…
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