脊椎(せきつい)動物の個体発生に伴って形成される構造で、咽頭腔(いんとうこう)と外部とを連絡する開口部をいい、鰓孔ともよぶ。個体発生の尾芽期あるいはそれに相当する時期になると、咽頭の内胚葉(はいよう)の側壁が前後の方向に一定の間隔で並んで外側に膨出し、内臓嚢(のう)となる。これと対応して体表面の外胚葉も内側に浅く陥入し、内臓溝となる。こうしてできた内臓嚢と内臓溝が接触し開口部ができたものが鰓裂である。鰓裂により分けられた弓状部分を鰓弓または内臓弓という。動物種によっては内臓溝が開口しないものもあるが、便宜上この場合も鰓裂とよぶ。
鰓裂の数は動物種により異なる。無顎(むがく)類のヌタウナギ類は6対ないし14対、ヤツメウナギ類は7対、軟骨魚類は6対(まれに8対)、硬骨魚類、両生類、爬虫(はちゅう)類は5対、鳥類、哺乳(ほにゅう)類は4対である。羊膜類、すなわち爬虫類、鳥類、哺乳類では内臓嚢は出現するが、ほとんど開口しないか、鰓裂は形成されてもすぐに閉じる。ホヤ、ナメクジウオ、ギボシムシなどの原索動物にも鰓裂が形成される。魚類や両生類の幼生では鰓裂の壁面に鰓弁ができ、呼吸器官としてのえらができる。内臓嚢は、甲状腺(せん)、副甲状腺、鰓後腺や胸腺など内分泌をつかさどる鰓性器官の形成に重要な役割を果たしている。陸生の羊膜類では、第1内臓嚢は中耳の鼓室とエウスターキョ管を形成する。
[高橋純夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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[脊椎動物のえら]
多くの脊椎動物では発生の過程で咽頭部の側壁に数対のふくらみが生じ,同時にこれらに対応して外胚葉にもくぼみができる。やがて両者は相通じて体表に開く鰓裂gill slitが形成される。高等脊椎動物では鰓裂が開口するまでには至らず,別に肺の形成が進む。…
…トンボ類幼虫の直腸鰓は,直腸壁に形成された微細なひだで,内部には気管小枝が密に分布しており,肛門を通して換水される。半索動物のえらは咽頭にあいた1~多対の鰓裂で,消化管内と体外とを連絡しており,基本的には脊椎動物の鰓裂と同じ構造のものである。ホヤ類では鰓裂は細分して多数の小孔となり,咽頭は繊毛を密生した網目状の鰓囊となって囲鰓腔の中に包み込まれ,出水口で体外に通じる。…
…両生類では鼓膜は体表と同じ面にあるが,爬虫類(耳の退化したヘビ類を除く)以上の動物では外耳が発達し,鼓膜は耳の外口より奥へ退いた位置にあって,機械的に損傷するのが防がれる。進化的にみれば,耳の穴は原始的魚類であるサメ類のもつ呼吸孔(噴水孔)つまり退化した第1鰓裂(さいれつ)と相同のもので,鼓膜はこの鰓裂の外口が開通せずに皮膚が張ったまま残存したものである。耳小骨は両生類・爬虫類・鳥類ではサメの舌顎軟骨(ぜつがくなんこつ)と相同の耳小柱(あぶみ骨とも相同)だけで,これの一端が鼓膜の内面に付着し,他の一端は内耳へつながっている。…
…尾索(被囊)亜門(ホヤ,サルパなど),頭索(無頭)亜門(ナメクジウオ),脊椎(有頭)動物亜門の3亜門に分けられるが,これらの亜門が系統的に直列的な関係にあるのか,それとも並列的な関係にあるのか,いまだ十分には解明されていない。これらはすべて,原口が肛門になり,二次的にできた口をもつ新口(後口)動物の一つで,体は体節に分かれ,少なくとも一生のうちのある時期には体が左右相称で,前部と後部,背側と腹側が定まり,咽頭(前腸)の両側に対をなした鰓裂(さいれつ)がある。鰓裂は原始的なものでは口から入った水の出口で,呼吸のほか,プランクトンのような餌をろ過するのに役だつが,高等なものでは胚にのみ見られる。…
※「鰓裂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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