改訂新版 世界大百科事典 「エケベリア」の意味・わかりやすい解説
エケベリア
Echeveria
整った多肉のロゼット葉が愛らしいベンケイソウ科のエケベリア属の総称。150種あり,メキシコが分布の中心で,乾燥した岩場に生える。10種はアンデス山脈に自生する。南限はアルゼンチン。英名をhen-and-chickensというが,これは親株のそばに子株のある様子を表したもので,エケベリアをはじめ似た形の植物も指す。多くは無茎で,葉は鋸歯がなく,先端はつめ状にとがる。葉色は青白色を帯びた種が多いが,白緑色,赤銅色,暗赤紫色なども見られる。エケベリア・セトーサE.setosa Rose et Purpus.,金晃星(きんこうせい)E.pluvinata Roseなど13種は毛を密生する。ロゼット葉は直径10cm内外が多いが,エケベリア・ギガンテアE.gigantea Rose et Purpus.やエケベリア・ギブビフローラE.gibbiflora DC.はロゼット葉の直径が30cmを超え,古株になると茎が立つ。花は赤橙色系で,多くは葉腋(ようえき)から尾状に伸びた花序につき,長さ1cmくらい。花弁は5枚で肉厚である。変化に富んだ葉色と整ったロゼット葉は,ロックガーデンや日時計の素材としてすぐれる。石垣や壁面を飾ったり,鉢植えにも使われる。水はけのよい土と強光を好み,耐寒性のある種が多い。繁殖は葉挿しがやさしい。実生の場合は覆土をしないでまく。有茎種は胴切りをして子吹きさせ,それをはずして挿木する。
近縁属
カリフォルニアからメキシコに40種あるダッドレヤ属Dudleyaは白く帯粉する種が多く,花はふつう白色で,花弁の合着は弱い。メキシコ産で葉が高度に多肉化したパキフィツム属Pachyphytum11種とグラプトペタルム属Graptopetalum12種などもエケベリア同様に観賞用に栽培される。日本産のイワレンゲOrostachys iwarenge(Makino)HaraやツメレンゲO.japonicus(Max.)Berg.も植物体は似るが,花序は頂生し,肉穂状で花が白い。ロゼット状の葉をもつベンケイソウ科は,ほかに,散房あるいは円錐花序を頂生し,花弁数が6~三十数枚のセンペルビブム属Sempervivumとアエオニウム属Aeoniumがある。前者はヨーロッパ中南部に25種。いずれも耐寒性が強い。代表種の巻絹(まきぎぬ)S.arachnoideum L.は白い綿毛でおおわれて美しい。一方,アエオニウム属はカナリア諸島などに36種が知られ,いずれも耐寒性はなく,有茎種もある。黒法師A.arboreum var.atropurpureum“Schwarzkopf”は夏季に戸外で日に当てて育てると,葉が黒くなる。
執筆者:湯浅 浩史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報