エスカレーター(読み)えすかれーたー(英語表記)escalator

翻訳|escalator

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エスカレーター」の意味・わかりやすい解説

エスカレーター
えすかれーたー
escalator

コンベヤーの一種で、動力により踏段(ステップ)を駆動し、多数の人間を連続的に昇降させる装置。移動階段、電気自動階段ともいう。ラテン語のscala(はしご)からつくられたことばで、かつてはオーチス社の登録商標名であった。

[中山秀太郎]

歴史

現在のエスカレーター原型は1898年シーバーガーC. D. Seebergerらによって設計されたものであるが、当時のものは踏段の面にクリート(縦溝(たてみぞ))がなく、乗り降りには長い水平部が必要であり、乗降口付近の手すり片側だけで、乗客は片側へ寄りながら横から乗り降りする構造であった。その後オーチス社は移動階段の試作を続け、1900年にはパリの万国博覧会に世界初公開の移動階段をエスカレーターの名で出品した。日本では1914年(大正3)東京・日本橋の三越百貨店に取り付けられ、22年にはクリート付き踏段とコムプレート(櫛(くし)形の板)の組合せが採用され、乗り心地と安全性が飛躍的に改善された。日本では、この型のエスカレーターが23年に東京・銀座の松屋百貨店に取り付けられ、さらに28年(昭和3)に大阪の新京阪電鉄天六(てんろく)ビルに国産品として最初に取り付けられ、この型のエスカレーターが普及し、今日に至っている。

[中山秀太郎]

構造

鉄骨構造の枠体(トラス)を上下2階床の梁(はり)(床)にかけ渡し、その中を左右2本の走る無端(エンドレス)の鎖に、階段に相当する踏段を取り付け、鎖を駆動させることにより踏段を循環させるものである。踏段には前輪後輪がついていて、それぞれ案内レール上にのっている。前、後輪は、それぞれ別々に案内レール上を移動して進み、案内レールは中間では一定の傾斜をもたせ、上下両端部では曲線状をなしている。この部分では踏段は、その表面が水平になるようにしてある。踏段が両端部に近づくにつれ、階段状の段が順次なくなるようにできている。両端の所で踏段は床下に潜るが、乗降口の先端は櫛形になっていて、乗っている人の足が安全にコム・プレートに移されるようにできている。中間の傾斜角は、水平に対し普通30度である。速度は毎分30メートル以下であるが、地下鉄駅などでは毎分40メートルの速度のものもある。

 内側板(欄干)は、ステンレスのものと強化ガラスのものがあり、用途に応じて設置されている。機械室は階上の床下に設けられており、その中にある駆動用電動機は、誘導電動機(3.7~22キロワット)でヘリカルギヤ減速機を使用している。従来のウォームギヤ使用に比較して伝達効率が向上し、省エネルギー化に役だっている。電動機軸には電磁ブレーキが取り付けられており、動力電源が切れたときただちに作用して運行を停止する。踏段チェーン、駆動チェーンが切断もしくは不当に伸びたとき、踏段とスカートガードの間に物が挟まったとき、移動手すりの入り込み口に手や物が入ったときなどには安全スイッチが作動して、ただちに運行を停止するようになっている。また上下の乗降口の近くにはかならず非常用停止ボタンがあり、押すと停止する。

 輸送能力は1時間に6000~9000人で、エレベーターの10倍以上の能力がある。モーターを逆回転させることにより、上下の2方向に動かすことができるが、使用上エレベーターのように上下の切り替えは簡単にはできないので、乗客の多い駅やデパートでは二つのエスカレーターをX字形に設け、上下それぞれの専用にしている。またエスカレーターは一つの階から次の階への輸送に用いられ、エレベーターは多数階の間の輸送に用いられている点に特徴がある。

[中山秀太郎]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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