エソ(読み)えそ(その他表記)lizardfishes

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エソ」の意味・わかりやすい解説

エソ
えそ / 狗母魚


lizardfishes

硬骨魚綱ヒメ目エソ科の魚類の総称。エソ科Synodontidaeの魚類は、温帯から熱帯の海域に分布し、水深1メートルほどの浅海から700メートルの深海域にかけての砂泥質の海底に生息する。マエソ属Sauridaには大形種が多く、全長70センチメートルに達するものがいるが、アカエソ属Synodusの多くの種は小形種で、15~30センチメートルほどである。体はほぼ円筒状で細長く、尾部に向かって細くなる。頭部は一般に縦扁(じゅうへん)する。頭部も体部も鱗(うろこ)で覆われている。側線に沿ってある鱗はそれほど大きくない。口は斜め上向きに開き、主上顎骨(しゅじょうがくこつ)は退化し、上主上顎骨は細い。上下両顎に先の鋭い歯が密生している。脂(あぶら)びれ(背びれの後方にある1個の肉質の小さいひれ)がある。背びれの軟条数は9~15本で、臀(しり)びれの軟条数は8~17本である。世界で4属57種ほど報告されているが、日本では4属27種(ミズテング属Harpadon2種、アカエソ属15種、マエソ属9種、オキエソ属Trachinocephalus1種)の報告がある。雌雄異体。産卵と発生はマエソ属の種で知られている。産卵は水深4メートルの中層で行われ、卵径は2.5~4.3ミリメートル。エソ科の幼魚は体が細長く、腹面に沿って暗色斑(はん)が数個並び、この特徴で近縁の科の種と容易に区別できる。

 エソ科魚類は肉食性で、小形の魚類などを食べる。なかでもマエソ属のマエソ、ワニエソ、クロエソSaurida umeyoshiiトカゲエソは体が大きくなり、これらを一括してエソ類として取り扱われることが多い。日本の漁獲量は愛媛県、長崎県、和歌山県、山口県、福岡県、大分県および鹿児島県で多い。肉は白身で、練り製品の材料としては最高級品とされている。他方、アカエソ属の種は体がそれほど大きくなく、まとまってとれないので、食用として重要な魚はほとんどいない。

[上野輝彌・尼岡邦夫 2025年5月20日]

料理

マエソはエソ類中ではいちばん味がよい。なまのものをそのまま煮ると小骨が口に当たって食べにくいが、開いて干してから焼くと小骨が感じられない。年間を通して味のよい魚である。関西、四国、九州で多く用いられ、上等かまぼこの材料にされる。大分県の海ではエソが多くとれることがあるが、そのときは総菜類にもしている。エソを用いた郷土料理として、大分県の光明寺飯(こうみょうじめし)とおかやくが知られる。光明寺飯は、エソを包丁の柄(え)でたたいて骨を取り去り、干したミカンの皮といっしょにすり鉢ですり、しょうゆ調味料で味つけし、熱い飯の上にかけて食べるものである。また、おかやくは、エソの肉を焼いて野菜と煮込んだものである。

多田鉄之助


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改訂新版 世界大百科事典 「エソ」の意味・わかりやすい解説

エソ (狗母魚)

ハダカイワシ目エソ科Synodontidaeに属する海産魚の総称。鱠とも書く。一般に扁平な頭部,細長い体,大きな口に鋭い歯をもち,外見はヘビやトカゲに似る。英名lizardfishトカゲウオ)もこれに由来する。全世界の海に4属約34種が知られているが,そのうち日本近海からは,マエソ属Sauridaのマエソ,ワニエソ,トカゲエソ,マダラエソ,オキエソTrachinocephalusのオキエソ,アカエソ属Synodusのアカエソ,スナエソ,ホシノエソ,ハナトゴエソ,チョウチョウエソの3属18種が知られている。各種にはそれぞれ地方名が非常に多く,混同しやすい。日本産の種の大部分は,南日本より東南アジア海域を経てオーストラリア海域,インド洋まで分布する。また一部は大西洋に分布を広げている。陸棚とその周辺海域の底層に生息し,底引網で漁獲される。日本では多くの種が練製品の材料に使用される。体は細長く,円筒状またはやや縦扁する。口は大きく裂け,上あごの後端は,眼の後縁よりはるか後方に達する。両顎歯は鋭く,2列から数列に並び後方に倒すことができ,小動物や小魚を捕食するのに適している。背びれの始部は体の中心より前位。腹びれは背びれの始部より前位。しりびれは尾びれの近くにあり脂びれと相対する。頭部および体表は円鱗で覆われる。

 多く漁獲されるマエソS.undosquamisは体長30cmくらいで,ときには50cmを超える。背面は暗褐色から黄褐色で,下方にいくにつれて体色は薄くなり,腹面は銀白色を呈す。尾びれの上縁部に1列の暗色点があることも特徴である。ワニエソS.waniesoは体長65cmに達し,体色はマエソと同じパターンを示す。体長20cmくらいのころから雄では背びれの第2軟条が糸状にのびる。漁獲量はマエソより多い。トカゲエソS.elongataは胸びれが短く,その後端が腹びれの基底部まで達しないことで,他のマエソ属魚類と区別される。体長約50cm。オキエソT.myopsは,吻(ふん)の長さが眼径より短く,体側に青色の不規則な縦線が3~4本走っている。また両眼の間隔が狭く,眼が頭頂近くにあり,体を内湾の浅海底の砂中に埋め,眼だけを外に出し餌をまつ。体長約30cm。チョウチョウエソS.macropsの体側には,X形のチョウに似た斑紋の列がある。体長約20cm。ハナトゴエソS.kaianusの体側には,大小交互に約8~10個の暗色斑紋が並ぶ。体長約20cm。いずれの種も練製品の材料とされるが,水産上重要なのは,マエソ属の魚類で,とくにマエソとワニエソは上等なかまぼこの材料となる。
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栄養・生化学辞典 「エソ」の解説

エソ

 ヒメ目エソ科の海産魚で,かまぼこなどに,加工される.マエソ (largescale lizardfish)[Saurida sp.],アカエソ(red brown lizardfish)[Synodus ulae],オキエソ(snake fish)[Trachinocephalus myops],ワニエソ[Saurida wanieso]などがある.

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百科事典マイペディア 「エソ」の意味・わかりやすい解説

エソ

エソ科の魚の総称。とくにマエソ属,アカエソ属,オキエソ属の魚を指すことが多い。すべて暖海性の底生魚で,口が大きく,歯が鋭いのが特徴。マエソは円筒状で体長30cmくらい,ときに50cmを超える。背面は暗褐色,腹面は銀白色。本州中部以南に分布,近海の砂泥底にすむ。近縁のワニエソ,トカゲエソなどとともにかまぼこ原料として重要。

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