日本大百科全書(ニッポニカ)「調味料」の解説
調味料
ちょうみりょう
料理の味あるいは素材の持ち味などを調整し、料理全体の味をととのえる働きをするものの総称。食塩、砂糖、酢、しょうゆ、香辛料といったものから、広い範囲では、トマトケチャップ、ウースターソース、油、酒の一部も含めることがある。昆布やかつお節などのうま味成分を含むうま味調味料も調味料の一つとされる。
[河野友美・山口米子]
歴史
調味料のなかで、まず自然発生的に使用されたものは食塩であろう。これは味つけだけではなく、人体に必要な重要成分として生命維持に欠かせないものであった。したがって、調味料というはっきりした意識なしに使用されているうちに調味料として独立した可能性が強い。次に古いものは酢と考えられる。これは穀類や果実などが自然に酢酸(さくさん)発酵して得られたものや、柑橘類(かんきつるい)その他の果実中に含まれている酸がそのまま利用されたからである。この酸は塩の味をまるくするのには必要であった。また塩漬け発酵させたものに、酸味を加えると味がまるくなるところから、酸味の利用は古くから行われたと考えられる。また糖類も古くからある調味料である。古代ギリシア・ローマでは養蜂(ようほう)が行われ、蜂蜜(はちみつ)が主たる甘味料であったが、これらは当然料理にも用いられていた可能性が強い。こういった基本的な調味料に対して、加工や、複雑な発酵を必要とする調味料の出現は、かなり後世になる。古代の日本では、醤(ひしお)、未醤(みそ)、豉(くき)といった調味料が醸造されていたが、これらからのちにみそやしょうゆが生まれる。甘味料としては飴(あめ)や甘葛(あまずら)も知られるが、おもに菓子に用いられたようである。また、トマトケチャップやウースターソースなどは材料からみても、中世になってトマトがヨーロッパに入ったのちにできたものである。
[河野友美・山口米子]
種類
基本的な調味料には、前述のように食塩、酢、砂糖および糖類があげられる。酢は発酵させた酢と柑橘など果実の果汁、および合成酢がある。また梅酢も古くから用いられた酢の一つである。糖類では砂糖、ブドウ糖、水飴(みずあめ)、蜂蜜、人工甘味料類がある。しょうゆには大豆などからつくるもののほかに動物性の魚醤(ぎょしょう)(秋田のしょっつる、ベトナムのニョクマン)などがある。みそは、ほとんどが大豆など植物性の原料を用いる。酒類は純粋に調味料として使われるものはみりんであるが、清酒、ワイン、シェリー、ブランデーなども調味料として使用される。加工調味料としては、ウースターソース、トマトケチャップ、バーベキューソース、マヨネーズなどがある。このほか、植物油などの油脂も調味料として使われることが多い。うま味の調味料としては、日本では昆布、しいたけ、かつお節、煮干し(出しじゃこ)などのだしと、昆布のうま味成分グルタミン酸、かつお節のうま味成分イノシン酸を化学的にナトリウム塩として製造したうま味調味料などがあり、また香辛料も加えれば、調味料の幅はかなり広いものとなる。
[河野友美・山口米子]
調味料の使用上の順序
調味料は、料理によって、使用上好ましい順序のあるものが多い。よくいわれるのは「さしすせそ」で、これは、和風の煮物などの場合、まず砂糖から加え、塩、酢、しょうゆ、みその順に加えることをさしている。砂糖は、いもなどデンプン質のものを煮るとき最初に加えておくと、水分や熱の浸透がよくなり、あとに加える調味料と材料とのなじみをよくする。これがよく浸透してから食塩を加えることは、浸透圧の作用により、材料中の水分が吸い出されることが防止できる。もし最初に食塩を加えると、材料から脱水されたり、あるいは、タンパク質を含むものでは堅く締まったりすることがある。酢は食塩の味をまるくするから、食塩がなじんでから加えるほうがよい。酢は酸味の主体が酢酸で蒸発しやすいため、最初に加えて長く加熱すると酸味分が失われることがある。また、酢は香りがだいじで、これは加えてからあまり加熱すると逃げてしまい、せっかくの風味が減少する。しょうゆも初めに加えるとよい香りが逃げる。また食塩を多く含むため、塩と同様、砂糖よりあとがよい。みそは粘性があり、長く加熱すると粒子が互いに凝集してざらついたり焦げやすいこともあり、香りを生かすためにもあとのほうがよいとされる。
しかし、これはあくまでも一つの説であり、料理ごとにかなり使用方法に違いがある。たとえばみそは臭み抜きの効力があり、これを利用するためにはみそ煮など早く加えて長く煮たほうがよい。
[河野友美・山口米子]
緩衝作用
調味料には緩衝作用のあるものが多い。これは味を和らげ、料理全体の味をまろやかにする。また、強い調味料をきかしたときも、その味を強烈に感じない場合があるが、これも緩衝作用があるためである。一般に調味料は緩衝作用の強いもののほうが調味効果が大きいといえる。
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うま味調味料
うま味調味料はうま味の主成分であるが、それのみで調味料として使用することは、料理の味の幅を狭くする。したがって、他のものと混合して補助的に使用するのがよい方法である。
[河野友美・山口米子]
『河野友美著『調味料の基礎知識 その特質と働き』(1985・家政教育社)』▽『河野友美編『新・食品事典7 調味料』(1991・真珠書院)』▽『福場博保・小林彰夫編『調味料・香辛料の事典』(1991・朝倉書店)』▽『越智宏倫著『光琳テクノブックス13 天然調味料』(1993・光琳)』▽『リュシアン・ギュイヨ著、池崎一郎・平山弓月・八木尚子訳『香辛料の世界史』(白水社・文庫クセジュ)』