マエソ(読み)まえそ(その他表記)brushtooth lizardfish

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マエソ」の意味・わかりやすい解説

マエソ
まえそ / 真狗母魚
真鮧
真鱛
brushtooth lizardfish
largescaled saury
[学] Saurida macrolepis

硬骨魚綱ヒメ目エソ科に属する海水魚。若狭(わかさ)湾と銚子(ちょうし)から九州南岸までの日本海と太平洋の各地の沿岸東シナ海トンキン湾タイランド湾オーストラリア、東アフリカなどのインド洋、西太平洋に広く分布する。体は細長く、円筒形。尾柄(びへい)部はやや側扁(そくへん)し、幅より尾柄高のほうが大きい。口は大きく、目の後縁をはるかに越えて後方に伸びる。上下両顎(りょうがく)には数列の鋭い歯があり、いずれも内側に倒すことができる。口蓋(こうがい)部には左右各側に2列からなる歯帯があり、外列の外翼状骨歯は前部で2列、内列の内翼状骨歯は3~5列に並ぶ。鋤骨(じょこつ)(頭蓋床の最前端にある骨)には歯がないか、1~2本の歯がある。鱗(うろこ)は円鱗(えんりん)ではがれやすく、尾柄部の側線鱗はキール(竜骨(りゅうこつ))状に隆起しない。側線鱗数は46~49枚。脊椎骨(せきついこつ)数は45~48個。背びれの起部は吻端(ふんたん)より脂(あぶら)びれ(背びれの後方にある1個の肉質の小さいひれ)起部に近い。胸びれの長さは中くらいで、その後端は背びれ起部と腹びれ起部を結ぶ線に達する。体は背面では褐色で、側線の下方では銀白色。側線上に7~8個の暗色斑(はん)が並ぶ。背びれは暗色で、胸びれの上3分の2は黒い。腹びれと臀(しり)びれは淡色尾びれの上葉は暗黄色で、ときどき上縁に3~8個の不鮮明な暗色の斑点があるが、下縁は白い。水深125メートル以浅の砂混じりの泥底にすみ、魚類、エビ類、イカ類、シャコ類などを食べる。尾叉長(びさちょう)は雄では1年で約18センチメートル、2年で23センチメートル、3年で29センチメートルほどに成長し、雌は雄より2センチメートルほど大きい。最大体長は50センチメートルほどになる。多くは満2歳で成熟し、4~10月に沿岸域で産卵する。体長12センチメートルほどの仔魚(しぎょ)では体が細長く、臀びれ前方の体の腹面に7個の黒色斑と臀びれ基底(付け根の部分)の直後に1個の小黒斑がある。本種は食用として重要な魚であり、おもに底引網で漁獲される。

 従来、本種の学名にはS. undosquamisが使われていた。しかし2006年に魚類研究者の井上健彦(たけひこ)と中坊徹次(なかぼうてつじ)(1949― )は、日本産の種は尾柄部の側線鱗が隆起しないこと、鱗がはがれやすいこと、胸びれの後縁は背びれ起部と腹びれ起部を結ぶ線に達しないこと、胸びれの後縁は顕著にくぼまないことなどの特徴により、タイプ産地(新種記載時の採集地)がオーストラリアのS. undosquamisと明瞭(めいりょう)に異なることが判明した。このことにより、タイプ産地が日本である種についてはS. macrolepisを復活させた。

[上野輝彌・尼岡邦夫 2025年5月20日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マエソ」の意味・わかりやすい解説

マエソ
Saurida macrolepis

ヒメ目エソ科の海水魚。全長 35cm内外。体はほぼ円筒状で細長く,頭部はやや縦扁する。口は大きく切れ込み,眼の後縁より後方に達する。歯は鋭く,数列あり,内側に倒れる。鱗は円鱗で落ちやすい。背鰭は体の中央よりやや前方にあり,それと尾鰭との中間に脂鰭がある。体の背・側面は黄褐色,腹面は白色。浅海の砂泥底にすみ,小魚,甲殻類などを主食とする。本州中部以南,インド・西太平洋に分布する。食用とされる。

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栄養・生化学辞典 「マエソ」の解説

マエソ

 [Saurida undosquamis].クロエソともいう.ヒメ目エソ科の海産魚.全長50cmほどになる.食用にする.

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世界大百科事典(旧版)内のマエソの言及

【エソ(狗母魚)】より

…英名のlizardfish(トカゲウオ)もこれに由来する。全世界の海に4属約34種が知られているが,そのうち日本近海からは,マエソ属Sauridaのマエソ,ワニエソ,トカゲエソ,マダラエソ,オキエソ属Trachinocephalusのオキエソ,アカエソ属Synodusのアカエソ,スナエソ,ホシノエソ,ハナトゴエソ,チョウチョウエソの3属18種が知られている。各種にはそれぞれ地方名が非常に多く,混同しやすい。…

【前掛け】より

…また但馬(兵庫県北部)や出雲(島根県東部)では,ヒロレ(ミヤマカンスゲ)の新芽を川にさらして編んだものをマイブリとかマエスブロという。肥前(佐賀県)西松浦郡では腰蓑をマエハギといい,瀬戸内海の漁師が網をひく際につけるわら,カヤ,シュロの毛で作った腰蓑はマエアテとかマエソと呼ばれている。このように,腰蓑と前掛けは機能的にきわめて類似しているが,ただ腰蓑が植物繊維で作られるのに対し,前掛けは普通は布製である点が異なっている。…

※「マエソ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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