改訂新版 世界大百科事典 「カイロモン」の意味・わかりやすい解説
カイロモン
kairomone
ブラウンW.L.Brownら(1970)によって提唱された用語で,ある種の生物がつくった物質が他の種の生物に触れた場合,つくった生物に対してよりも,接した生物の方に有益な効果を及ぼす物質。植物がつくる昆虫の誘引物質は昆虫の行動にとって重要なもので,この例に含められる。一般に誘起物質と呼ばれるものもカイロモンといえる。一方,ある種の生物がつくった物質が他の種の生物に触れた場合,接した生物に生理的もしくは行動的な反応をひきおこして,物質をつくった生物に有益な効果を及ぼすことがあり,このような物質をアロモンallomoneという。忌避物質・抑制物質・毒物などはアロモンとみなすことができる。生物種間の相関に何らかの物質が関与することは多く,それらの物質はこの定義のいずれかに属することになるが,カイロモンとしてもアロモンとしてもはたらく物質も多い。たとえば花のにおい物質は昆虫に作用して訪花行動をおこさせる。これは花粉塊を必要とする昆虫にとっても有益な作用を及ぼすので,カイロモンといえるが,その結果,花粉の媒介(受粉)が行われることになり,植物にとってより大きな効果を及ぼすので,アロモンともいえる。
執筆者:岩槻 邦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報