受粉(読み)じゅふん(英語表記)pollination

翻訳|pollination

精選版 日本国語大辞典 「受粉」の意味・読み・例文・類語

じゅ‐ふん【受粉】

〘名〙 種子植物で、花粉が雌しべ柱頭につく現象。その結果受精が行なわれる。花粉の出所によって自家受粉他家受粉とに分けられる。花粉の移動は風媒・動物媒(虫媒・鳥媒など)・水媒などによる。

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デジタル大辞泉 「受粉」の意味・読み・例文・類語

じゅ‐ふん【受粉】

[名](スル)雄しべの花粉が雌しべの先端につくこと。その結果として受精が行われる。
[類語]しべ花蕊かずい花心雌蕊めしべ雄蕊おしべ雌花雄花子房柱頭花粉

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改訂新版 世界大百科事典 「受粉」の意味・わかりやすい解説

受粉 (じゅふん)
pollination

種子植物の花粉が雌性生殖器官(被子植物ではめしべの柱頭,裸子植物では胚珠の珠孔部)に付着する現象。雌性生殖器官の側からの表現で受粉といわれることが多いが,花粉の側からの発想で授粉といわれることもあり,最近では繁殖の生物学の分野で昆虫による送粉といわれることも多くなってきた。

 受粉には同じ個体の雌性生殖器官に付着する自家受粉と,必ず他の個体の雌性生殖器官に着く他家受粉とがある。自家受粉のうちで,雌雄同花であって,同じ花のめしべの柱頭に受粉する場合は同花受粉,同じ花序の他の花に受粉する場合は隣花受粉,同じ個体であっても異なった花に受粉する場合は同株他花受粉などと区別することもある。このような受粉の様式の差は,単性花,雌雄異株などの現象と同じように,植物の進化にとって重要な役割を果たしている。

 被子植物では,花粉がめしべの柱頭につくと,やがて生長して花粉管となり,精核を2個つくる。2個の精核は胚囊につくられている卵細胞,2個の極核が合体した核(中心核)とそれぞれ合体する重複受精を行い,次代の幼植物が休眠状態にある種子をつくる。裸子植物の花粉は胚珠にもたらされてから数ヵ月間は花粉室にとどまり,やがて花粉管を伸ばす。裸子植物のうち,イチョウソテツの花粉管に精子が形成されることを最初に確かめたのはそれぞれ平瀬作五郎と池野成一郎で,これは明治時代における日本の植物学が世界的な発見をした最初のものであった。

 花粉は自分では運動しないから,何かの力に媒介されて移動する。その様式には,水媒,風媒,動物媒などがあり,種子植物の多様化にはその様式がたいせつな意味をもっている。水媒花は花粉が水によって媒介されるもので,水生植物にふつうにみられ,水中で受粉するものと,水上で受粉するものがある。風媒花は花粉が空気中を浮遊して媒介されるもので,一般に花被をもたないか,もっていても目だたないものが多い。大量の花粉を産出して空気中に放散するので,人の鼻孔などに入ってアレルギー性疾患である花粉病の原因になったりする。動物によって花粉が媒介されるものを動物媒というが,コウモリ媒,カタツムリ媒のように特殊な生物によるものや,いくつかの種による鳥媒など多少珍しいものもあるが,圧倒的に多いのはいろいろの昆虫によって媒介される虫媒である。受粉に関与する昆虫にはさまざまのものがあり,古くから虫媒花と昆虫の関係についてはよく観察されている。花と昆虫が互いを制約しながら進化している例も多く,共役進化co-evolutionの典型例としてあげられることが多い。また,花の形態が昆虫の構造と相関して進化しているとされる例も多いが,目的論的な説明に終始して客観的な証明が与えられていない場合が多い。被子植物の進化にとっては,虫媒による受粉の機構の多様化はたいせつな意味をもつものであり,今後の科学的な研究が必要なテーマである。
受精
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「受粉」の意味・わかりやすい解説

受粉
じゅふん

植物の受精の際に、花粉が受精のための特定の場所につくことをいう。被子植物では雌しべの柱頭が、裸子植物では胚珠(はいしゅ)の珠孔部が花粉のつく場所となる。受粉は、花粉が同じ個体の雌しべにつく自家受粉と、同種の植物の別の個体の間で花粉が雌しべにつく他家受粉に分けられる。自家受粉には、同じ花のなかで花粉が雌しべにつく自花受粉と、同じ個体の別の花の間で花粉が雌しべにつく隣花受粉とがある。スミレアサガオなどは、花が開く前のつぼみの段階で受粉するが、これを閉花受粉といい、開花してから受粉する開花受粉とは区別される。

 受粉には一般に自家受粉を避ける仕組みがあり、キキョウ、モクレン、オオバコなどのように、雌しべと雄しべの成熟期がずれたり(雌雄異熟)、アサやイチョウのように雄株と雌株が分かれたり(雌雄異株)、同一個体の花粉を受粉しても受精しない(自家不和合性)などの方法によって自家受粉を避け、他の個体の花粉によって受粉しようとする。そのため、花粉の移動を媒介するものとして昆虫、風、鳥、水などが利用される。ミツバチ、チョウ、ガなどの昆虫の媒介で花粉が雌しべに運ばれる虫媒花では、大形で美しい花が多く、香りや蜜(みつ)で昆虫を誘引する。マツやスギなどの風の力で花粉が運ばれる風媒花では、あまり目だたない花が多く、軽い花粉を大量に生産して空中に飛散する。南米のハチドリなどの小形の鳥によって受粉が媒介される鳥媒花は、大形の美しい花と大量の蜜が特徴となっている。このほか、セキショウモなどのように水の流れによって花粉が運ばれる水媒花や、カタツムリなどの動物によって花粉が運ばれるものもある。人が人為的に花粉を雌しべの柱頭につけて受粉させることを人工授粉といい、優れた遺伝的形質をもった品種をつくるのに利用されたり(品種改良)、受粉を媒介する動物がいない時期や純系を保つ場合などに行われる。

[吉田精一]

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百科事典マイペディア 「受粉」の意味・わかりやすい解説

受粉【じゅふん】

種子植物の生殖過程の一つ。めしべの先端(柱頭)に花粉がつくこと。受粉が同じ花のおしべとめしべの間で行われるのを自花受粉(同花受粉とも),同じ個体の中で行われるのを自家受粉,違う個体間では他家受粉という。放置しては受粉しない場合,特定の個体間で受粉させる場合などは人工授粉が行われることもあるが,自然では風や昆虫,時には鳥や水などがおしべからめしべへの花粉の運搬(送粉)をなかだちしており,それぞれ風媒,虫媒,鳥媒,水媒と呼ばれる。花のほうも運搬者に適した構造を備えている。受粉された花粉は発芽して花粉管をのばし,受精へ進むが,おしべとめしべの組合せによってはこの行為が妨害されて結実できない不稔(ふねん)性となることもある。
→関連項目花粉シュプレンゲル

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「受粉」の意味・わかりやすい解説

受粉
じゅふん
pollination

被子植物においては花粉が柱頭に到達すること。裸子植物においては花粉が雌花の珠孔に達すること。これにより花粉が花粉管を伸ばして (ソテツ,イチョウの類では精虫を生じ) ,受精が成り立つ。

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