改訂新版 世界大百科事典 「カゾット」の意味・わかりやすい解説
カゾット
Jacques Cazotte
生没年:1719-92
フランスの小説家。出生地ディジョンで法律を修めた後,パリに出て,海軍省に文官として勤務,やがて海外植民地アンティル諸島のマルティニク島で海務監察官を務める(1747-60)。帰国後パリの北東140kmの小村ピエリの地主として,文筆に専念。1789年の大革命直後,村民に推され村長となるが,王党派支持の態度を隠さなかったため反逆罪で処刑された。20代初期の《猫の足》(1741),《千一無駄話》(1742)にみられた幻想的作風は,年と共に深まる神秘主義的傾向も加わり,その後の散文詩《オリビエ》(1763),《にわか貴族》(1767)などのなかでいよいよ顕著になる。代表作《悪魔の恋》(1772)は妖魔ビヨンデッタと青年騎士アルバーレの,事実か幻想か定めがたい怪奇な恋を優雅繊細な筆致で描いたもので,この小説を頂点とする一連の作品で,彼はフランス幻想文学の先駆者とみなされている。
執筆者:中川 信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報