日本大百科全書(ニッポニカ) 「カワムツ」の意味・わかりやすい解説
カワムツ
かわむつ / 川鯥
[学] Zacco temminckii
硬骨魚綱コイ目コイ科に属する淡水魚。ムツ、モト、ハエ、ハヤなどともよばれる。能登(のと)半島と天竜川以西の本州、四国、九州に分布する。近年は伊豆半島や関東地方でも繁殖している川がある。朝鮮半島、中国、台湾にも分布する。全長20センチメートルを超えるものは少ない。ひげはなく、側線は下方へ湾曲する。同属のオイカワに似ているが、体側の色斑(しきはん)が明瞭(めいりょう)に異なる。生態も対象的な相違を示し、本種のほうはヨシ、ヤナギの陰や淵(ふち)に多くいて、水面に落下したり流下してくる昆虫を待ち受けて食べる。かつては平野部の流れにも生息したが、オイカワが移入されて繁殖すると敗退し、現在では山間部に限定されることが多い。また、近年の河川改修は、平野部の川岸からヨシやヤナギを消失させるので、この傾向はいっそう促進される。5~8月に淵の周囲や平瀬の砂礫(されき)底に産卵する。この時期の雄は、腹側一面が赤色を帯びるので、アカムツやアカモトとよばれる。食用としてはオイカワよりややまずい。
[水野信彦]