フランスの啓蒙(けいもう)思想家ボルテールの哲学小説。1759年刊。原題は『カンディードまたは楽天主義』。純な心の持ち主カンディードは、師で、ライプニッツ流の最善説(予定調和説)の信奉者パングロス博士を信じているが、男爵の娘キュネゴンドへの恋心が災いし城から追われたのち、彼が世の中で遭遇したのは、戦争、大地震、異端審問所等々で、師の説をことごとく裏切るものばかりであった。キュネゴンド嬢に運よく一命を救われたカンディードは、2人で南米に渡るが、この地でも異端審問の追及が待ち構えていた。ついに、この世の黄金郷エル・ドラドにたどり着くが、無目的に人生を過ごすことのできない主人公は、ヨーロッパに戻り、そこで自らの畑を耕し幸福に暮らす老人を見て、「われわれの庭を耕さねばならない」と悟る。機知と皮肉を利かせた独特の文体で、空疎な形而上(けいじじょう)学を退け、実践的叡知(えいち)を説いた傑作である。
[市川慎一]
『吉村正一郎訳『カンディード』(岩波文庫)』
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