翻訳|carnation
ナデシコ科(APG分類:ナデシコ科)の多年草。オランダセキチクまたはジャコウナデシコともいう。南ヨーロッパ、西アジア原産。高さは20~90センチメートルで直立し、よく枝を出す。葉は対生し、線状で灰緑色。1ないし数個の花をつける。原種の花色は鮮赤色であるが、現在は花色が豊富となり、絞りや覆色(ふくしょく)などもある。花弁は元来5枚であるが、数十枚のものが多く、弁先は切れ込みが多い。雄しべは一重咲きでは10本、八重咲きは不完全ながら数本つく。雌しべの花柱は2裂する。花の大きさは種類により大小があり、花径2、3センチメートルから10センチメートル以上のものまである。萼(がく)は円筒形で先端は5裂し、基部に菱形(ひしがた)の小包葉が数枚つく。温室や露地で切り花用に栽培され、また花壇にも利用される。最近は矮性(わいせい)種がつくられ、鉢植えにもされる。現在のカーネーションはカリオフィルスの改良種ではなく、ダイアンサス・シネンシスその他ダイアンサス各種との交雑によってつくられた系統とされている。
種類を大別すると、実生(みしょう)の一季咲きと四季咲き、栄養繁殖(主として挿し芽)の一季咲きと四季咲きとに分けられる。実生の一季咲き種にはボーダーがあり、品種にグレナダン、アーリードワーフビンナなどがある。5~6月に数十本の花茎を伸ばし、多くの花をつける。四季咲き種にはシャボー、アンファンドニース、マーガレットなどあり、矮性種のピグミードワーフ、F1(雑種第一代)のピカデリーやナイトなど、優秀な品種が作出されている。栄養繁殖するのはほとんど四季咲きのパーペチュアル系で、中・大輪の一輪切り花用として栽培されていたが、近年、脇芽(わきめ)摘みの労力を省力化するため、小輪多花性のスプレー系がよく栽培されるようになり、とくに日本で作出されたエンゼル系の栽培は急増している。中輪の一輪切り花用の代表品種としてよく栽培されたコーラル、ピーターなどは、近年極端に少なくなり、大輪系の栽培に変わっている。
[魚躬詔一 2021年1月21日]
実生の一季咲き種は5~6月に、四季咲き種は8月下旬~9月中旬に播種(はしゅ)し、冬は霜除(よ)けをし、早春に定植するとよい。また鉢植えの最新品種は6~7月と播種を早め、温室で育て、早春から出回るようになった。栄養繁殖は、一季咲きは6月、四季咲きは8~9月に挿芽をするといずれも翌春に開花する。温室栽培では普通2~4月挿芽、6~7月定植とする。近年、栄養繁殖系のカーネーションでは、ウイルス病対策として成長点培養(メリクロン)の苗が用いられるようになり、多年草の宿命ともいえるウイルス病は少なくなった。
[魚躬詔一 2021年1月21日]
原種の栽培は古代ギリシア・ローマ時代からで、観賞以外にワインの香りづけにも使われた。イギリスには、一説によると紀元前55年にカエサルの兵が持ち込んだと伝えられ、17世紀に改良が進んだ。イギリスの薬剤師パーキンソンは1629年、『地上の楽園』で51の品種をあげて図示し、以降20世紀にアメリカにとってかわられるまで、イギリスはカーネーションの栽培と改良の中心地であった。日本にはオランダから正保(しょうほう)年間(1644~1648)に渡来し、オランダセキチクとよばれた。カーネーションの名は、大正期以降、ガラス温室の普及で大量生産が始まるとともに定着した。また母の日にカーネーションを飾る習慣は、1907年にアメリカ、フィラデルフィアのアンナ・ジャービスという娘が、母の命日にカーネーションの花を教会で配ったことと、1914年アメリカ政府が5月の第2日曜日を母の日に制定したことが結び付き、広がっていった。スペイン、モナコ、ホンジュラスの国花である。
[湯浅浩史 2021年1月21日]
南ヨーロッパ原産のナデシコ科のDianthus caryophyllus L.を基本にして,近縁のナデシコ類(セキチクなど)が交配されて作出された園芸植物。現在の園芸種D.caryophyllus L.はすでに古代ギリシア時代に栽培が始まり,17世紀にはフランスやイギリスで品種改良が行われ,さらに19世紀になると他種との交配などによって多数の品種が育成された。日本へは江戸時代後期にオランダより渡来したためにオランダセキチクと呼ばれた。草丈15~100cm。分げつして茂る株から茎を伸ばして,灰緑色で革質の細い剣状葉を対生する。茎上に芳香のある八重咲きの花を咲かせるが,原種は一重咲きである。花の色は黒紅色,紅色,桃色,白色,黄色,橙色,赤紫色などいろいろで,絞りや覆輪模様などもある。多数の園芸品種は利用のしかたから,温室切花用品種群と,花壇用品種群とに分類され,前者は通年開花する四季咲き多年生で切花専用であるが,後者は5月ころに開花する一季咲き多年生品種群と,四季咲きの一年草としてとりあつかわれる品種群とに分けられている。近年,小型の鉢物用四季咲き多年生品種(ミニ・カーネーション系)も多く栽培されている。また原種のD.caryophyllusは花から精油を集め,香水の原料とする。温室切花用品種群は挿木繁殖を行い,温室で栽培するが,花壇用品種群は春または秋に種子をまいて栽培する。
執筆者:柳 宗民
カーネーションは,大プリニウスによれば,アウグストゥス帝時代にスペインで発見されたといわれるが(《博物誌》),実際には地中海沿岸を中心に,かなり古くから栽培されており,古代ギリシア人はこの花をゼウスにささげた。花冠や花環を作るのに欠かせぬ植物であり,カーネーションの名はその花冠,花環を意味するラテン語coronaに由来する。一方,花が肉色をしていたので,ラテン語のcaro(肉)から出た名だという俗説も広く知られている。キリスト教伝説では,十字架にかけられるキリストを見送った聖母マリアが落とした涙のあとに生じた花とされ,母性愛の象徴と考えられた。よって1907年にアメリカのジャービスAnn Jarvisの提唱により,〈母の日〉(5月の第2日曜日)には母親が健在の子は赤の,亡くした子は白のカーネーションを,それぞれ胸に付ける習慣が生まれた。この花の中央部が赤いのはキリストの体から滴った血のせいだといわれるが,イタリアのロンセッコ家にまつわる伝承では,勇士オルランドが敵に胸を突かれたときの血で白い花が赤くまだらに染まったことになっている。花言葉は〈哀れなわが心〉,赤白まだらの場合はとくに〈拒絶〉,黄色は〈軽蔑〉,白は〈純愛〉。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また種間の交雑が容易で,多くの雑種起源の園芸品種も育成され,八重咲きの品種も多く作出されている。開花期は多くのものが初夏であるが,夏から秋にかけて開花するものもあるし,園芸的には,カーネーションのように通年開花をするような栽培方法もとられている。おもな栽培品種群には次のようなものがある。…
※「カーネーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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