日本大百科全書(ニッポニカ) 「キドランド」の意味・わかりやすい解説
キドランド
きどらんど
Finn Erling Kydland
(1943― )
ノルウェー国籍をもつアメリカ在住のマクロ経済学者。ノルウェー南西部のロガラン県イェスダール生まれ。ノルウェー最古のビジネススクール、ノルウェー・スクール・オブ・エコノミックスを1968年に卒業。1973年にカーネギー・メロン大学で博士号を取得し、ノルウェー・スクール・オブ・エコノミックスなどを経て、1982年にカーネギー・メロン大学教授に就任。カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校教授も兼務。「マクロ経済学に時間的不整合性仮説と実物的景気循環(real business cycle)理論の二つの概念を導入し、各国の財政・金融政策に大きな影響を与えた」として、2004年のノーベル経済学賞をE・C・プレスコットとともに受賞した。動学的マクロ経済学の発展に決定的な役割を果たした功績が認められたのである。
1977年のプレスコットとの共同論文「Rules Rather than Discretion:The Inconsistency of Optimal Plans」で、政策当局が景気情勢に応じて裁量的に財政・金融政策をとると、長期的な視野にたった「ルール」に基づく政策より効果が小さくなることを理論的に明らかにする。主流のケインズ経済学に対し、「時間的整合性問題」(time consistency problem)を提起した。金融政策では政策の一貫性だけでなく、当局の「信頼性の問題」(credibility problem)が重要であると分析し、中央銀行の独立性確保にも大きな影響を与えた。
1982年のプレスコットとの共同論文「Time to Build and Aggregate Fluctuations」では景気変動が不可避であることを強調し、実物的景気循環理論を展開する。貨幣的要因よりも技術革新や生産性向上などの供給サイドの実物要因で景気循環を説明できると分析した。マクロ経済学分野そのものでのノーベル経済学賞受賞は、1995年のR・E・ルーカス以来である。
[金子邦彦]