日本大百科全書(ニッポニカ) 「キンクス」の意味・わかりやすい解説
キンクス
きんくす
Kinks
イギリスのロック・グループ。ビートルズ、ローリング・ストーンズと並んでブリティッシュ・ロックの三大グループといわれる。しかしキンクスはほかの二つのグループとさまざまな点で大きく違い、その理由の一つはリーダーのレイ・デービスRaymond Davies(1944― 、ボーカル、ギター)が人生の敗者を好んで描き、そこから生まれるノスタルジックでシニカルな、きわめて特異な作風ゆえといえる。しかしレイの特異な作風ゆえ、キンクスはイギリスのロックン・ロールの頂点に立つグループの一つとされる存在になったのである。
ロンドン北部のマスウェル・ヒルで育ったレイと弟のデーブ・デービスDave Davies(1947― 、ボーカル、ギター)はレイブンズと名乗りリズム・アンド・ブルースを演奏していたが、1963年にドラムのミック・エイボリーMick Avory(1944― )、ベースのピーター・クアイフPeter Quaife(1943― )と出会い、バンドを結成する。彼らのデモ・テープを聴いたアメリカ人プロデューサー、シェル・タルミーShel Talmyの尽力で、バンドはパイ・レコードと契約し、グループ名をキンクスとした。3枚目のシングル「ユー・リアリー・ガット・ミー」(1964)がイギリスでチャート1位、アメリカで7位の大ヒットを記録し、バンドは軌道に乗る。
初期はハードなガレージ・サウンド(1960年代後半にアメリカのティーンエイジャーにより演奏された音楽。ガレージを練習場所にしたことが名前の由来)で人気を博していた彼らだったが、66年の『フェイス・トゥ・フェイス』あたりからレイのソングライティングの才能が開花する。カウンターカルチャーが勃興した時代に、キンクスは『サムシング・エルス』(1967)、『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』(1968)、『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』(1969)といった作品を世に問う。彼らはビクトリア朝時代のイギリスを回顧し、街行く人々を黄昏(たそがれ)時に眺める孤独な老人を歌い、極めて絵葉書的な村の緑を保存しようというスローガンを掲げるなど、ロック・バンドらしからぬ作品を続けざまにリリースする。しかし、彼らの姿勢は反動的と受けとられたわけではなく、それらのアルバムはいずれも商業的には失敗したがブリティッシュ・ロックの古典として聴き継がれている。70年にはロック・オペラ仕立ての『ローラ対パワーマン、マネーゴーランド組第一回戦』を発表。田舎の純朴な少年が、大都会の女装趣味のある性的倒錯者にたぶらかされるという物語だった。71年にはRCAに移籍、同年『マスウェル・ヒルビリーズ』などの傑作を世に送り出す。80年代にもヒット曲をいくつか生むが、60年代後半の全盛期には遠く及ばず、レイはソロとしての活動に移行していった。また著述家として自伝『X-Ray』(1995)などの話題作も発表した。
[中山義雄]
『X-Ray(1995, Penguin USA, New York)』