化学辞典 第2版 「クロム化合物」の解説
クロム化合物
クロムカゴウブツ
chromium compound
クロム化合物には,クロムの酸化数-2~6のものが知られているが,CrⅡ,CrⅢ,CrⅥ化合物が普通で,元素名の由来のとおり,有色のものが多い.【Ⅰ】低酸化数化合物:クロムヘキサカルボニル[Cr(CO)6],ジベンゼンクロム[Cr(C6H6)2]などでは酸化数0,ジベンゼンクロム塩[Cr(C6H6)2]X(X = Br- など)では,酸化数1である.Cr(CO)6をNaアマルガム,NaBH4などで還元するとNa2[Cr-Ⅱ (CO)5],Na2[Cr2-Ⅰ (CO)10]が得られる.【Ⅱ】クロム(Ⅱ)化合物:二価の化合物は,クロムと成分元素との直接反応やクロム(Ⅲ)化合物の水溶液の亜鉛のような活性な金属による還元や電解還元により得られる.塩化物CrCl2,硫酸塩CrSO4などのほか,酸化物CrOも知られている.クロム(Ⅱ)化合物は,強力な還元剤である.水溶液中ではCr(H2O)62+として存在し,青色を呈し酸素によりたやすく酸化される.【Ⅲ】クロム(Ⅲ)化合物:CrⅢはもっとも安定な酸化状態で,安定な化合物が多数存在する.クロム単体との直接反応や,クロム酸塩MⅠ2CrⅥ O4,二クロム酸塩MⅠ2CrⅥ2O7の還元で得られる.多数の錯体が知られていて,ヘキサアクアイオン [Cr(H2O)6]3+ は水溶液中で安定に存在するもっとも代表的な錯イオンで,紫色を示す.ハロゲン化物,硫酸塩,硝酸塩のほか,さまざまの複塩,錯塩の形の化合物がある.水溶液をアルカリ性にすればCr2O3・nH2Oを沈殿するが,さらにアルカリを加えると,暗緑色の [Cr(OH)6]3- を生じて溶ける.【Ⅳ】クロム(Ⅳ),(Ⅴ)化合物:酸化物,ハロゲン化物,ハロゲン化酸化物に限られている.CrⅥ O3の熱分解で生成する黒褐色のCrⅣ O2は強磁性を示し,磁気テープに用いられる.CrⅥ O42-を還元すると得られるCrⅤ O43-は常磁性を示す.【Ⅴ】クロム(Ⅵ)化合物:CrⅥ化合物ではCrF6を除いて,すべてオキソ化合物で,オキソアニオンのクロム酸塩,二クロム酸塩などが知られており,塩基性溶液中では黄色のクロム酸イオンCrO42-,pH が低くなると二量体の橙赤色の二クロム酸イオンCr2O72-となる.二クロム酸ナトリウムに硫酸を加えると得られる三酸化クロムCrⅥ O3(乾燥状態で深赤色)は強力な酸化剤で,かつ毒性が強い(政令名称「無水クロム酸」として毒物及び劇物取締法劇物指定).CrⅥ化合物はすべて強い酸化剤である.CrⅥの酸化力が強いため,ハロゲノおよびオキソ以外の配位子は酸化され,中心金属であるCrは低い酸化状態に還元されるため,錯体の種類は限られている.六価クロム化合物はPRTR法・特定第一種指定・発がんクラス1(ヒトに対して発がん性あり),作業環境クラス2(気体1 mg m-3 以下,粒子状物質0.1 mg m-3 以下),感作性クラス1.三価クロム化合物もPRTR法・第一種指定・作業環境クラス3,感作性クラス1.二クロム酸およびその塩類(毒劇法では重クロム酸,重クロム酸塩として),クロム酸塩類は劇物指定.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報