日本大百科全書(ニッポニカ) 「六価クロム化合物」の意味・わかりやすい解説
六価クロム化合物
ろっかくろむかごうぶつ
hexavalent chromium compounds
クロムは金属状態の0価のほかに+2価、+3価、+6価の酸化状態をとりやすい。これらのうちで+6価の酸化状態をとっているクロムを含む化合物を「六価クロム化合物」という。三酸化クロム(CrO3)、クロム酸(H2CrO4)、二クロム酸(H2Cr2O7。重クロム酸ともよばれる)とそれらの塩がその代表である。
三価クロムは人体に必要であるのでクロムは必須(ひっす)元素とされているが、これと対照的に六価クロムは毒性が強く、発癌性(はつがんせい)をもっている。六価クロム化合物は皮膚や粘膜につくと皮膚炎をおこす原因となり、空気中に飛散している粉末を吸入すると上部気道炎などの原因となる。過去に化学工場で二クロム酸カリウムを長期間取り扱っていた従業員に鼻中隔穿孔症(せんこうしょう)、肺癌が多発した例がある。
六価クロム化合物である二クロム酸カリウムや三酸化クロムは強力な酸化作用があり、有機合成においてもしばしば酸化剤として使われていた。 の反応例に示すように、酸化剤の六価クロムは有機物を酸化する際に自らは還元されて無害の三価クロムになる。すなわち、六価クロム化合物は還元されやすく、土壌中でも細菌などの有機物により還元されて、三価クロムになり無害化されるのである。しかし、多量に存在すると土壌による無害化は追いつかず、土壌汚染を生ずることから、六価クロムの毒性が社会問題になり、あまり使われなくなっている。六価クロムには水質、土壌、地下水について環境基準値が設定されていて規制されているが、クロム鉱滓(こうさい)の埋立地や化学工場跡地で多量の六価クロムが埋め立てられている場合には、基準値を超える量が検知された例がある。
[廣田 穰]