改訂新版 世界大百科事典 「ケネウィックマン」の意味・わかりやすい解説
ケネウィック・マン
Kennewick man
アメリカ合衆国ワシントン州,先住民居留地であるケネウィックのコロンビア河の岸辺で,1996年に発見されたアメリカ先住民の人骨の通称。人骨は偶然に発見され,現代人のものかと思われたが,考古学的な遺骨であることが分かり,慎重な作業によって全身の骨が収集された。人骨は,壮年の男性で,推定身長170~175cmと大柄。顔つきは彫りが深かった。なんと,骨盤に8cmの槍先が突き刺さったまま治っていた。年代は,人骨から直に放射性炭素法により約8400年前と推定された。初期のアメリカ先住民の人骨として重要だが,それだけでなく,人類学的な由来と遺骨の帰属に関して,大きな問題となった。すなわち,この人骨がアメリカ先住民の遺骨であるなら,〈先住民墓地保護および遺骨返還運動〉に基づき,本来の部族に返還して再埋葬するべきであるとして,五つの先住民集団が手を挙げた。しかし,当初の研究では,この人骨はコーカソイドつまりヨーロッパ系であると判断されたので,アジア系の起源をもつ先住民ではないから返還する必要はないということになった。その結果,法廷闘争にもち込まれ,改めてニューメキシコ大学のパウエルJ.Powellが研究したところ,ヨーロッパ人よりも東アジア人に,とりわけアイヌに似ているとの結論が出された。人骨はワシントン大学のバーク博物館に保管されている。ちなみに偶然だが,バークburkeには,闇に葬るという意味もある。なお,返還されることが決まったとの報告が2010年にあったが,詳細は不明。
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報