日本大百科全書(ニッポニカ) 「コステロ」の意味・わかりやすい解説
コステロ
こすてろ
Elvis Costello
(1954― )
パンク・ロック期に登場したイギリスのシンガー・ソングライター。本名デクラン・パトリック・マクマナスDeclan Patrick MacManus。ロンドン郊外パディントンに生まれる。知的なユーモアと直情を同居させたソング・ライティングと歌詞に定評がある。ジャズ・トランペッターでヒッピー精神にあふれた父親と、ジャズ・スタンダードを好んだ母親の間に育ったコステロは、カントリー・アンド・ウェスタンやリズム・アンド・ブルースに傾倒する少年時代を過ごす。ハイスクールを卒業した彼は、コンピュータ技術者として働くかたわら、パンク前夜のイギリスで流行したパブ・ロック(パブのような身近な場所で演奏された、リズム・アンド・ブルースを基調にしたシンプルなロックン・ロール)に触発され、フリップ・シティというグループを結成、活動を開始する。
76年にコステロはパブ・ロックのグループを多数抱えていたスティッフ・レコードと契約を結び、翌77年3月にシングル「レス・ザン・ゼロ」でデビューする。同年7月にアルバム『マイ・エイム・イズ・トゥルー』をリリース。パンク・ロックのまっただ中で発売された本作だったが、斜に構えた視線と巧妙なソング・ライティング、そしてルーツ・ミュージックを踏まえつつパンク的な疾走感に溢れたサウンドが小気味よいコステロの音楽は、新しいタイプのシンガー・ソングライターの登場として一躍注目を集めた。
デビュー作に高い評価を受けたコステロは、ライブ活動のためにバックバンドを結成する。スティーブ・ナイーブSteve Naive(キーボード)、ブルース・トーマスBruce Thomas(ベース)、ピート・トーマスPete Thomas(1954― 、ドラムス)の3人は、ジ・アトラクションズとして以後のコステロをバックアップしていくことになる。『ディス・イヤーズ・モデル』(1978)、『アームド・フォーセス』(1979)、『ゲット・ハッピー』(1980)とコステロのソング・ライティングと鋭角的なパフォーマンスは円熟味を増し、80年代イギリスを代表するシンガー・ソングライターとしての評価は確固としたものとなっていった。
ブランクもなく、順調にキャリアを重ねていったコステロは、最もイギリスらしいポップ・センスを備えたアーティストの一人であり、ブリティッシュ・ロック界の大御所的存在として君臨している。彼のキャリアは、パンクの激情が音楽的成熟に至る一例を、身をもって示している。
[増田 聡]
『トニー・クレイトンリー著、小原亜美訳『マイ・エイム・イズ・トゥルー――エルヴィス・コステロ・バイオグラフィー』(2000・ブルース・インターアクションズ)』▽『ウィル・バーチ著、中島英述訳『パブ・ロック革命――ニック・ロウ、エルヴィス・コステロ、ドクター・フィールグッドらのロックンロール・デイズ』(2001・シンコー・ミュージック)』