フィンランドの小説家。ドイツ、エストニア、オーストリアで動物学を学び、母国フィンランドの北辺の地ラップランドほかで獣医として勤務した。現地民サーミ(ラップ)人が北極圏の厳しい自然条件と闘いながら、トナカイを飼育する生活や、植物や動物の生態観察を通して、自然とともに生きる哀歓を描いた『四つの風の道』(1947)、『大白鳥』(1950)は、哲学的な示唆に富み、自然と乖離(かいり)していく文明への警鐘を含むドキュメンタリー風の紀行文。『ペッシとイッルーシア』(1944/邦訳名『羽根をなくした妖精(ようせい)』)は、前線に出兵中の作者が娘の誕生日のプレゼントにと綴(つづ)った長編ファンタジーで、虹(にじ)の国の妖精イッルーシアと森の精ペッシが、悽惨(せいさん)にして温かく、恐ろしくも美しい自然の営みを通して愛をはぐくんでいく。映画化・劇化され、現在も評価が高い。ほかに『狼(おおかみ)の歯の首飾り』(1951)は、その一部が日本の国語教科書に収められた。
[高橋静男]
『渡辺翠訳『羽根をなくした妖精』(1975・晶文社)』