日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
コバルト60大量遠隔照射装置
こばるとろくじゅうたいりょうえんかくしょうしゃそうち
cobalt teletherapy equipment
超高圧放射線治療装置の一つで、体の深部に存在するがんの治療に用いられた。コバルト60とはγ(ガンマ)線を放出する放射性同位元素(ラジオ・アイソトープ)で、γ線のエネルギーは約1.25メガ電子ボルト(MeV)。半減期は約5.3年である。この放射性元素を壁の厚い鉛の容器に大量に入れ、一方に穴をあけ、蓋(ふた)をしておく。使用時にこの蓋をあけると大量のγ線が穴から出てくる。この放射線(γ線)を照射して治療する装置がコバルト60大量遠隔照射装置である。
1940年代までのX線治療装置はその管電圧が200~300キロボルトであったため、皮膚の放射線障害が強く、深部臓器の治療が困難であったが、1000キロボルト以上のγ線を放出できるコバルト60の遠隔照射装置が普及することで深部臓器の放射線治療が可能となった。
ほとんどの装置が回転軸から80センチメートルのところに線源(コバルト60)が位置するようにガントリー(線源収納容器を支える回転腕)や線源収納容器が設計されており、患者は照射台の上に寝た状態で照射を受ける。この照射台は上下、左右、前後と自由に動き、腫瘍(しゅよう)がこの回転軸と放射線の中心軸と交わるところにきたとき、照射台を固定して照射する。
使用済みコバルト60の処理などの問題点に加え、1980年代以降はさらにエネルギーの高い放射線を発生させることのできるリニア・アクセレレーター(直線加速器。リニアックと呼称される)が普及したため、日本放射線腫瘍学会の構造調査では2017年(平成29)以降、日本国内ではがん治療のために本装置を使用している施設はない。
[赤沼篤夫・石川 仁 2024年2月16日]