放射能をもつ元素をいうが、放射能は、元素にではなく核種に帰属される性質であるから、放射性同位体radioactive isotope(ラジオ・アイソトープradioisotopeともいう)をもつ元素のことになる。しかし現在では、人工合成されたものを含めれば、すべての元素に放射性同位体があるので、天然の放射性同位体を含む元素を天然放射性元素、人工の放射性同位体のみからなる元素を人工放射性元素という。また、天然放射性元素には、すべての同位体(アイソトープ)が放射性のものもあるが、原子量の算出に長寿命で存在比の小さい放射性同位体の寄与を加えるものもある。たとえば、カリウムでは半減期約13億年のカリウム40(存在比0.0117%)が原子量算出に含まれるため、天然放射性元素とされる。一方、大気中にほぼ一定の比率で存在するために年代測定に利用される炭素14(半減期5730年)は原子量算出には含まれないので、炭素は天然放射性元素とはされていない。
[岩本振武]
天然放射性元素としては、19番カリウムから78番白金までにおける放射性同位体の存在比は小さい。84番ポロニウムから92番ウランまでは、すべての同位体が放射性である。
ロシアのメンデレーエフが提出した周期表には各所に欠落があったが、希ガス(貴ガス)部分の大きな補充を含め、その大部分は次々に埋められていった。1896年フランスのベックレルによって発見された放射能は、元素確認の手段として利用されるようになったが、その当時、放射能は元素に固有の性質と考えられたため、新しく発見された放射性同位体は新元素であるとされ、それらは周期表ですでに位置を与えられた既知元素と同じ位置に収容されることになった。同位体と同じ意味で現在でも使われることがある同位元素ということばはそのことに由来している。ポロニウム、アスタチン、フランシウム、ラジウム、プロトアクチニウムなどの天然放射性元素は放射能を手掛りとして発見された。ポロニウム以降の原子番号の大きな天然放射性元素は、トリウム系列、ウラン・ラジウム系列(ウラン系列)、アクチニウム系列とよばれる天然放射性崩壊系列によって生成する。トリウム系列はトリウム232を出発核種として質量数4n(nは整数)を保つ系列で、最終的に鉛208となる。ウラン系列はウラン238を出発核種として質量数4n+2を保つ系列で、最終的に鉛206となる。アクチニウム系列はウラン235を出発核種として質量数4n+3を保つ系列で、最終的に鉛207となる。崩壊系列にはこれらのほか、プルトニウム241から出発して質量数4n+1を保つネプツニウム系列があり、その最終核種はタリウム205である。
[岩本振武]
43番テクネチウムと61番プロメチウムは超ウラン元素以外の人工放射性元素であるが、両元素ともに周期表では長らく欠落したままであった。前者は1937年、後者は1945年それぞれ人工合成された同位体として発見され、43番は人間の技術を意味するギリシア語technikosからテクネチウム、61番はギリシア神話で神から人間に火をもたらしたプロメテウスにちなんでプロメチウムと命名された。
93番ネプツニウム以降の超ウラン元素はすべて人工放射性元素である。ただし、プルトニウムではウラン鉱物中での核反応によって生じたプルトニウム239が天然に存在するが、これは炭素14の場合と同様に、天然放射性同位体とはみなさないのが普通である。
原子核に中性子、陽子、重陽子、α(アルファ)粒子、あるいは他の原子核を衝突させたり核分裂させたりすると新しい同位体を生成する。それらの多くは天然には存在せず、また放射性であり、そのようにしてすべての元素について放射性同位体が得られている。
[岩本振武]
同位体の化学的性質がほとんど同じであることと、放射性同位体が一定の半減期で一定の崩壊形式をとることを利用して、地質学的あるいは考古学的試料の年代を測定することができる。マグマから岩石が晶出する際に、ある放射性同位体が岩石に取り込まれ、その崩壊によって生じた安定同位体がそのまま岩石内に貯留されていたとすると、残存している放射性同位体と生成した安定同位体の原子比ならびに半減期から、その岩石が晶出してから現在までに経過した時間、つまり年代を知ることができる。半減期からあまりかけ離れた年代の測定は困難であるが、カリウム‐アルゴン、ルビジウム‐ストロンチウム、ランタン‐セリウム、ウラン‐鉛などの組合せが地質学的年代の測定に利用される。大気中にほぼ一定の比率で含まれる炭素14は、地表での炭素循環のために生体内でも同じ比率で含まれている。生体が死ぬと、炭素14は半減期に従って減少するので、炭素の安定同位体に対する比率から、生体の死亡年代を算出することができる。この方法は考古学的試料の年代測定に利用される。
[岩本振武]
『富永健・佐野博敏著『放射化学概論 第3版』(2011・東京大学出版会)』
放射能をもつ元素をいう。天然に存在する天然放射性元素(自然放射性元素ともいう)と,人工的に製造される人工放射性元素とがある。しかし狭い意味では天然放射性元素(たとえばトリウム,ラジウムなど)のみをさし,また安定同位体をまったくもっていない元素(ラジウムやウラン,プルトニウムなど)のみをさすこともある。これまでに知られている原子の種類は,原子番号,質量数,エネルギー状態などを用いて表すと約1500種(核種といっている)あることがわかっている。これらを原子番号で分類すると約100種になり,これが元素であり,原子番号の等しい核種が同位体である。核種のうち安定なものを安定核種といい,約210種あるが,残りは不安定で,これを放射性核種といっている。放射性核種を含む元素が放射性元素である。
天然放射性核種は,ウラン系列,トリウム系列,アクチニウム系列の3系列と,40K,87Rb,115In,138La,144Nd,147Sm,176Lu,180W,187Re,190Pt,209Biなどがあり,これらを含む元素が天然放射性元素である。元素が宇宙において初めてつくり出されたときは,多くの放射性および非放射性の核種が存在したと思われるが,放射性核種のうち半減期の短いものはこれまでに崩壊してなくなり,長い半減期のものおよびそれから生じた核種のみが天然に存在するものとされる。また宇宙線による核反応などで生成する14C,3Hなどは誘導放射性核種というが,これらを含む元素は放射性元素とはいわないのが普通である。天然放射性元素で初めて発見されたのはウランで,1896年フランスのA.H.ベクレルが,ウランを含む鉱石が写真乾板に対して著しい感光性を示すことから見いだした。
人工放射性核種は,1934年ジョリオ・キュリー夫妻がポロニウムのα線で,ホウ素,マグネシウム,アルミニウムなどの軽い原子核を衝撃して,13N,27Si,30Pなどをつくったのが最初であり,それ以後,加速器や原子炉などを用いてきわめて多くの種類の人工放射性核種がつくられている。これらのうちテクネチウムやネプツニウム,アメリシウムなど,天然には存在しないが,人工的に初めてつくられた放射性元素を人工放射性元素という。ただしネプツニウムなどは,現在では天然のウラン鉱中に極微量存在することが知られており,厳密にいえば人工放射性元素というわけにはいかないが,それでもやはりこのなかに含めている。人工放射性核種を俗に人工放射性元素ということもあるが,人工放射性核種はこれまでに存在している元素の同位体であることが多く,正しい使い方ではない。人工元素として初めてつくられたのはテクネチウムである。1937年ペリエC.PerrierとセグレE.Segréは,モリブデンに重陽子を衝撃させて,それまでに存在が認められていなかった43番元素を極微量得た。そして初めて人工的につくられたことから,ギリシア語で〈人工〉を意味するtechnētosにちなんでテクネチウムと名づけた。人工放射性元素のうちウランより原子番号の多い元素は超ウラン元素という。超ウラン元素で初めてつくられたのは93番ネプツニウムNpであり(1940),それ以降94番プルトニウムPu,95番アメリシウムAm,96番キュリウムCm,97番バークリウムBk,98番カリホルニウムCf,99番アインスタイニウムEs,100番フェルミウムFm,101番メンデレビウムMd,102番ノーベリウムNo,103番ローレンシウムLrなどがつくられている。さらにこれまでに104番,105番,106番,107番までの元素がつくられているが,それらの名称については確定されていない(たとえば104番元素はクルチャトビウムおよびラザフォージウムなどという名称が主張されている)。
放射性核種は,自然にα線,β線,γ線などを放射して崩壊していくが,元素としての変化に関係してくるのはα線とβ線である。α線はα粒子(すなわちヘリウムの原子核)の粒子線であり,α粒子一つを放射すると,質量数4,原子番号2だけ小さい核種となる。β線は電子の粒子線であり,β粒子一つを放射すると原子番号が1だけ大きい核種となる。α線を放射する崩壊をα崩壊,β線によるものをβ崩壊という。γ線はX線などと同じような電磁波で,α線あるいはβ線に伴って放射されるが,γ線を伴わない崩壊もある。放射性元素は天然あるいは人工のいずれにしても,自然に崩壊してつぎつぎに新しい元素に変わり,ついには安定な核種の元素となる。たとえばラジウムやポロニウムなどはいずれも段階的に崩壊して最後には安定な鉛の同位体となり,完全に放射能を失う。しかし,これらは崩壊の全体の経路からみると中間に位置しており,その始源元素はウランである。このような放射性元素の崩壊していく系列を放射性崩壊系列といっている。
→放射性崩壊
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…この考え方は直線自由エネルギー関係として一般化され,反応性や性質の予測に用いられた。 20世紀の無機化学は放射性元素に関する研究によって大きく飛躍した。E.ラザフォードは1902年までに,放射能やそれに伴う蛍光は単純な化学反応によるものではなく,原子の壊変(他の原子への変換を伴う)によるものであること,放射能にはα線,β線,γ線の3種があることを確かめた。…
※「放射性元素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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