日本大百科全書(ニッポニカ) 「ごみ屋敷条例」の意味・わかりやすい解説
ごみ屋敷条例
ごみやしきじょうれい
自宅の敷地に大量のごみをため込む、いわゆる「ごみ屋敷」に対し、地方自治体が対処するための条例の通称。ごみ屋敷に起因する、悪臭や害虫・ねずみの発生、土壌・水質の汚染、防災・防犯機能の低下、不法投棄や放火の誘発、堆積物の崩落や交通障害など、近隣の生活環境に支障を及ぼす問題を解消するねらいがある。条例名は「生活環境保全条例」「堆積物適正化条例」「環境美化条例」など多様であり、空き家条例などにごみ屋敷への対処規定を盛り込む自治体もある。ただ、ごみ屋敷ということばを直接、条例名や条文に使った例はない。
一般に個人の敷地内の物品には財産権があり、かってに処分できないが、ごみ屋敷条例の制定で、地方自治体による調査や所有者への助言、指導、勧告、命令が可能となる。地方自治体に行政代執行など、ごみ撤去のための強制力を伴う権限を付与する条例があるほか、緊急時の即時執行を盛り込んだ条例もある。調査拒否や命令違反には過料などの罰則を科し、氏名を公表する自治体もある。一般に、ごみをため込む住人には、疾病・障害、あるいは通常生活を行う意欲を喪失したセルフネグレクト(自己放任)などが想定されることから、多くのごみ屋敷条例が、住人への福祉的ケア(介護、生活保護など)の実施を盛り込んでいる。
2012年(平成24)、東京都足立(あだち)区が区内のごみ屋敷に対処するため、全国で初めて生活環境保全条例を制定。その後、同様の条例をつくる動きが全国に広がり、環境省の調査では2022年(令和4)時点で、全国101の市区町村がごみ屋敷条例を制定し、確認されたごみ屋敷は全国で5224か所に上った。核家族化や高齢化の進展で、ごみ屋敷問題は全国共通の課題であるものの、2023年時点で、問題解決は基本的に自治体任せで、ごみ屋敷に対応した国の法制度は存在しない。総務省は2022~2023年にごみ屋敷全国調査を実施し、支援策や法整備の準備に入っている。
[編集部 2023年9月20日]