地方公共団体(都道府県・市町村など)がその権限に属する事務に関し、法令の範囲内で議会の議決を経て制定する自治立法をさす。地方公共団体の長がその事務について制定する規則とは異なる。明治憲法下でも、地方公共団体は条例を制定することができたが、中央集権制度の下にあって条例で規定すべき事項も少なく、刑罰を定めることも許されず、その重要性は小さかった。日本国憲法では、その第92条以下で地方自治、自治立法権が保障されたことに伴い、条例についても、その性質、規定事項、実効性の保障手段のすべての点で強化され、著しく重要性を増した。すなわち、条例は法令(法律だけでなく、政令・省令も含む)に違反することはできないが、地方公共団体の権限に属するすべての事務について規定できる(地方自治法14条以下)。
義務を課し、権利を制限するには条例を制定しなければならない(いわゆる侵害留保説の立法化)。命令をするとか、税金を賦課するには条例が必要となる。首長の定める規則や内部の要綱などで権利制限・義務賦課をすることはできない。補助金を支給するとか、休肝日を定める条例のように単なる訓示規定にとどまるものは本来条例がなくてもよいが、条例を制定してもよい。
また、条例の実効性を確保するため、刑罰規定(2年以下の懲役・禁錮、100万円以下の罰金、拘留・科料または没収)または5万円以下の過料を置くこともできる。
条例の例としては、工場誘致条例、育英資金貸付条例、公害防止条例、公安条例、青少年保護条例、ぐれん隊防止条例、ストーカー規制条例、迷惑防止条例、琵琶(びわ)湖周辺での有リン合成洗剤の使用を禁止する滋賀県の富栄養化防止条例、ふるさと滋賀の風景を守り育てる条例、犬害を防止する飼犬・野犬条例、消費者保護条例、情報公開条例、個人情報保護条例、政治倫理条例、県土保全条例、まちづくり条例、環境影響評価条例、廃棄物条例、放置自転車対策条例など、日常生活に密接な関係のあるものも多い。
2000年(平成12)の分権改革前は、いわゆる機関委任事務は地方公共団体の事務ではないので、条例の対象とはならないとされてきたが、改革後は、地方公共団体で行われている事務はすべて地方公共団体の事務とされ、自治事務だけではなく、法定受託事務でも、条例制定の対象となる。
条例のなかには、国の法律によって条例制定を地方公共団体に委任したり(屋外広告物条例、日影規制条例、景観規制条例など)、条例で制定できる範囲を示したり(大気汚染防止法、水質汚濁防止法など)するものがある。その種の条例においてはその授権の範囲内にあるかどうかが争点になるが、国の法律に授権されない独自の条例においては、地方公共団体の事務に関して規定されているか、国の法令に違反していないかが争点になる。たとえば、取引関係は国法である民法で定められているから、条例では介入できないので、品質保証条例では保証の内容を義務づけるのでなく、保証された内容を表示するにとどめるなど、くふうを凝らしている。まちづくり条例では、都市計画法、建築基準法に違反しないかが、つねに争点となる。
条例は一般には、議員からの提案か首長からの提案で、議会の多数決で制定されるが、住民が選挙権者の50分の1以上の連署により条例の制定改廃を請求することもできる(地方自治法12条、74条以下)。しかし、住民投票で条例を制定することは認められておらず、結局は議会で否決されることが多い。税金の値下げについては条例の制定請求も認められていない。住民自治は極めて不十分である。
[阿部泰隆]
都道府県,市町村,特別区の制定する自主法。ただし,明治初期には〈市区改正条例〉〈新聞紙条例〉のように国の法令にも〈条例〉の語が使われていた。地方自治体の条例制定権は,今日,日本国憲法94条および地方自治法14条に保障されているが,第2次大戦前の明治憲法の下では条例制定権の憲法保障は存在しなかった。市町村の条例制定権は1888年制定の市制,町村制に定められたが,府県のそれは1929年の府県制の改正によって認められた。だが戦前の条例制定権は市町村,府県ともに非権力的な行政領域に限られていた。これに対し現行憲法および地方自治法の下では,地方自治体は行政組織,公的施設,議会委員会の設置や税,使用料,手数料の賦課徴収などを条例で定めねばならないが,さらに住民の自由や権利を規制する〈行政事務条例〉を制定することができ,また条例の違反者に2年以下の懲役もしくは禁錮,100万円以下の罰金,拘留,科料または没収を科す旨を規定することができる。こうした条例制定権の改革は,地方自治体を非権力的事業団体から住民に身近な地方政府へと転換させるものであった。けれども,地方自治体が自主立法機能の拡充に努めるようになったのは1960年代末以降のことである。それ以前には条例には国の法令の地域的補完機能が濃く,条文も国ないし府県の用意した〈モデル条例〉を機械的に適用したものが多かった。また〈公安条例〉のように政治的に法律制定が難しい事項について国が条例制定を指導し,それを受けて制定されたものもある。学問的にも〈法令の先占理論〉にみるごとく条例は法令に従属するものと位置づけられていた。
ところが,1960年代の高度経済成長にともなう急激な都市化と工業化は,都市問題を一段と悪化させた。これを受けて住民に直結した政治を掲げる革新自治体が叢生(そうせい)したが,これらの自治体は公害や福祉行政の充実のために,〈上乗せ,横出し条例〉と総称される条例を制定した。これは既存の法令が規定する給付や規制基準にさらに上乗せした基準を設け,また法令の作用対象を拡大(横出し)することを定めるものであった。69年の東京都公害防止条例はこうした自主立法機能の強化に先鞭を付けるものであったが,この種の条例が各地に波及するにつれて法令の先占理論は事実上崩壊し,自主立法権は新たな時代を迎えた。今日では空缶回収条例,合成洗剤禁止条例,情報公開条例のように,自治体の条例には法令の空白領域を対象とするものが増加しており,条例の作成過程にも市民の参加がくふうされている。
条例の制定過程を概観すると,議会に提出される条例案のほとんどが首長提案にかかるものであり,議員提出条例や住民提出条例はきわめて少ない。また首長は条例制定に一種の拒否権である再議権を行使でき,首長主導の要素が強い。さらに条例の運用のために首長は施行規則を定めるが,いかなる範囲までを条例に定め,何を施行規則にゆだねるかは,条例制定の目的の実現を左右する難しい問題である。なお,地方自治体の首長は,その権限に属する事務について条例とは別に規則を定めることができ,かつ5万円以下の過料を違反者に課すことを規定できる。長に属する権限は地方自治法148条,149条に包括的に規定されているが,その多くは個別法令に定められた機関委任事務である。
執筆者:新藤 宗幸
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(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)
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…広義では,公共団体(地方公共団体,公共組合等)が,その自治権に基づいて制定する条例,規則,組合規約等をさし,狭義では,地方公共団体(都道府県,市町村等)の制定する条例,規則をさす。自主立法ともよばれ,公共団体にその遂行の義務と責任を課された公の行政を実施するため,自治権の範囲内において制定される。…
…その案を一定の期間ごとに審議し,その採るべきものを選んで集成したのが例である。例には種々な区別があって,律に関するものを条例といい,六部にわたった一般行政に関するものを会典事例(《乾隆会典》では則例,《嘉慶会典》《光緒会典》では事例)といい,各部限りのものを則例といい,1省内に限って行われるものを省例という。則例には,吏部則例,戸部則例,礼部則例,工部則例,理藩院則例その他多数ある。…
… なお,上記の意味での命令のほか,裁判所の定める規則(裁判所規則。憲法77条1項),地方公共団体の定める条例・規則を含めた法律以外の国法形式を命令ということもある。(2)行政機関が法律,条例の規定に基づいて国民に対し具体的に一定の義務を課することを命令という。…
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