改訂新版 世界大百科事典 「サドベヤヌ」の意味・わかりやすい解説
サドベヤヌ
Mihail Sadoveanu
生没年:1880-1961
ルーマニア最大の散文作家。モルドバ地方の農家の出身で,一時首都に出て法学を学んだが中退し,作家活動に専念した。中学時代から同人誌を編集して作品を発表し,1904年に《声なき悲しみ》などの3冊の短編小説集と歴史小説を刊行して文壇に認められた。以後超人的な創作力で,10巻以上の長編歴史小説,百数十編の中編・短編小説を次々と書き,豊かな語りと深い抒情性に富む文体によってルーマニア散文芸術の最高峰としての地位を占めるに至った。キリスト教以前の世界に生きるダキア人たちを描いた《金の枝》(1933),15世紀末のオスマン・トルコに対する戦争の時代に題材をとった三部作《ジデリ兄弟》(1935-42)などの歴史小説は民族的大叙事詩の世界を生みだし,希望のない灰色の田舎町の生活とそこで破滅する人生を描いた《しおれた花》(1906),《ハイア・サニス》(1908)などの中編小説はチェーホフやフローベールの世界に通じるものを持つ。古民謡や伝説にもとづく神話的説話の世界を描いた《アンクツァの宿》(1928),《斧》(1930)などの作品もあるが,作者の本領は,モルドバ地方を舞台に自然との深い共感の中に生き,都市文明の非人間化と精神的汚濁から己の人間性を守り抜こうとする自然人--農民,羊飼い,きこり,漁師,山賊,修道士--たちを深い愛情をこめて描いた多くの短編小説にある。《流亡の時代》(1907),《泥小屋の住民たち》(1912),《狼の浮島》(1941)などがその代表作である。
執筆者:直野 敦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報