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フランスの小説家。ノルマンディー地方のルーアンに生まれる。父親が外科医で病院長をも務めていたため,病棟や解剖教室に隣接した住居で生まれ育ち,幼時から病者・死者のいる光景に目でなじんだ。10歳にならぬころからすでに物を書き始めたが,その初期習作の多くに幼少年期の特異な環境の反映がみられるとされる。ルーアン王立中学を経てパリ大学法学部に入学して2年余り後の1844年冬,終生の持病となった神経疾患の最初の発作に襲われ,ほどなくして学業を断念,ルーアン近郊のクロアッセの家に引きこもり,以来ここでひたすら文学創作に専念する生活を送ることになる。49年秋から51年初夏にかけての長い近東旅行から帰ったあと,一字一句をもゆるがせにしない厳しい創作態度を貫き,4年半余りの歳月をかけて長編小説《ボバリー夫人》を書き上げ,56年に《パリ評論》誌に連載発表,翌年出版の単行本の成功とともにフローベールの名は一躍高まった。以後,62年に《サランボー》,69年に《感情教育》,74年に《聖アントアーヌの誘惑》,77年に短編集《三つの物語》を発表するが,80年,《ブバールとペキュシェ》の執筆半ばに急逝した。フローベールは,同時代に盛んであった〈写実主義〉や〈自然主義〉の文学理論に一貫して否定的態度をとりつづけたが,それにもかかわらず,彼の小説は発表当初から〈写実主義〉をみごとに具現した作品と受け取られ,おもにその点で自然主義作家らの賞賛を集めた。後世の文学的評価においてもまた,客観的・没個性的な描写に代表される作品の写実主義的側面がもっぱら強調される傾きがあったが,今日では19世紀的な写実主義の枠をこえて現代小説の方向に大きな影響を与えた多様な作品の特質が特に注目されている。日本における翻訳紹介は明治40年代に始まり,田山花袋,島崎藤村以下,それぞれの理解にもとづいてフローベールに感化を受けた作家たちがいる。
執筆者:斎藤 昌三
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…流派のもう一方の旗頭となったデュランティも,みずから編集発行する文学雑誌《写実主義》(1856‐57)などを通じて写実主義理論をくりかえすかたわら,その理論にのっとった小説を発表した。しかし,ロマン主義に代わって写実主義こそが時代の文学的潮流となったことを決定的に印象づけたのは,フローベールの小説《ボバリー夫人》(1857)である。フローベール自身は写実主義派の文学理論や実作に強い嫌悪の念を抱いていたにもかかわらず,《ボバリー夫人》以下の諸作によって,この作家は写実主義文学の真の巨匠とみなされるに至り,後の自然主義の作家たちからも先駆者と仰がれることになった。…
…彼らの手法はトルストイに受けつがれ,《戦争と平和》《アンナ・カレーニナ》で近代小説は完成したと見ることもできる。リアリズム(写実主義)の流れは,フランスではゾラとフローベールに続くが,ゾラの自然主義が実証的社会誌に向かうのに対して,フローベールはリアリズムの技法を厳格化する過程で,外部の現実との絆を切って自立する芸術作品としての小説という理念に達し,現代小説の戸口に立った。またこの時代には作者内面の夢や葛藤を表現する近代的ロマンスというべき《嵐が丘》やメルビルの《白鯨》が生まれ,大都会の悪夢的な世界の中に強力な善悪のドラマを作りだしたディケンズやドストエフスキーが現れた。…
…こうした傾向を集約した人間学の新しい理論として登場したのが,フロイトの精神分析学であるが,それと呼応するかのように,プルーストは畢生の大作《失われた時を求めて》(1913‐27)で,〈私〉の独白に始まる自伝的回想が,そのまま写実的な一時代の風俗の壁画でもある空間を創造して,心理小説に終止符を打った。人物や家屋や家具の純粋に視覚的な描写の連続のしかたが,そのまま観察者=話者である主人公の嫉妬の情念の形象化でもあるようなロブ・グリエの《嫉妬》(1957)は,プルーストの方法をいっそうつきつめた成果であるが,その先駆者は《ボバリー夫人》(1857)のフローベールにほかならない。 この観点からすると,どんなに写実的であろうと,すべての小説は心理小説であるという逆説も成り立つ。…
…フランスの小説家フローベールの長編小説。副題は〈田舎風俗〉。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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