改訂新版 世界大百科事典 「シェルブールの雨傘」の意味・わかりやすい解説
シェルブールの雨傘 (シェルブールのあまがさ)
Les parapluies de Cherbourg
1964年製作のフランス映画。カトリーヌ・ドヌーブ主演。せりふをすべてオペラのように,しかしオペラのような声楽的テクニックの誇示を避けて,自然な演技と日常会話のような表情で歌わせるという〈映画史上かつてない大胆な試み〉に成功した作品。バスビー・バークリー振付のレビュー映画からジーン・ケリーの《雨に唄えば》(1952)に至るハリウッドのミュージカル・コメディにあこがれ,このフランス映画の伝統にはないアメリカ的な〈おとぎばなしの映画的形式〉を追求し続け,港町を舞台に人生の出会いと別れを色彩豊かに描くことを夢みてきた〈映画詩人〉ジャック・ドゥミー(1931-90)の名を一躍高からしめた。デビュー作《ローラ》(1960)は,メルビルやゴダールによって,〈珠玉の名編〉とたたえられたが,ドゥミーはこの作品を当初,音楽を担当した作曲家のミシェル・ルグランとともにカラーによるミュージカル映画として企画しながら果たせなかった。《シェルブールの雨傘》は,この作品の続編といえる。アルジェリア戦争の勃発とともに,一枚の召集令状によって引き裂かれた恋人たちの悲劇を,ルグランの美しい音楽(せりふは,すべてプロの歌手によって撮影前に歌われ録音されたプレスコprescoringによるものである)と港町シェルブールの街中をハリウッドのセット風に原色もあざやかな絵具で塗りつぶして(美術はベルナール・エバン),ハリウッド的なカメラワーク(冒頭の雨傘の俯瞰(ふかん)撮影,クレーンによる移動撮影等々)で描いたもの。映画史家G.サドゥールによれば,1930年代末のプレベール=カルネ(ジャック・プレベール脚本,マルセル・カルネ監督の映画)の〈詩的リアリズム〉に対して,60年代の〈詩的ネオリアリズム〉の代表的作品である。
執筆者:広岡 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報