日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドゥミ」の意味・わかりやすい解説
ドゥミ
どぅみ
Jacques Demy
(1931―1990)
フランスの映画監督。フランス西部のロアール・アトランティク県のポンシャトー生まれ。1951年E. T. P. C. (写真映画技術学校)卒業。はじめアニメーションに関心をもち、1952年アニメ作家ポール・グリモーPaul Grimault(1905―1994)のアシスタントとなる。のち、ジョルジュ・ルキエGeorges Rouquier(1909―1989)のアシスタントとして映画界に入り、数編の短編映画を撮る。1961年に少年時代を過ごしたナントの街を舞台とする最初の長編映画『ローラ』(1961)を発表、初期ヌーベル・バーグの代表的作品とされる。同作で表現された自伝的内容、ミッシェル・ルグランの音楽、ベルナール・エバンBernard Evein(1929―2006)のセットは、初期のドゥミ作品の特徴的な要素となる。『ローラ』と続く4作『天使の入江』(1963)、台詞(せりふ)がすべて歌のミュージカル映画『シェルブールの雨傘』(1963)、アメリカ・ミュージカル映画へのオマージュ『ロシュフォールの恋人たち』(1966)、アメリカで製作された『モデル・ショップ』(1968)では、同じ登場人物がときには脇にまわり、ときには中心となって表れ、ゆるやかに結びついた一つの物語世界を形づくっている。『ローラ』に始まるこのシリーズの後は、シャルル・ペローの童話をミュージカル化した『ロバと王女』(1970)、中世ドイツ民話をもとに、イギリスのフォーク・シンガー、ドノバンDonovan(1946― )を主役としたイギリス製ミュージカル『ハメルンの笛吹き』(1971)、男性の妊娠がテーマのコメディ『モン・パリ』(1973)、日本の人気少女漫画を映画化した『ベルサイユのばら』(1978)などを発表するが、いずれも初期作品の興行的・批評的成功には及ばなかった。その後ふたたびナントの街で撮影された悲劇のミュージカル『都会のひと部屋』(1982)は興行的には不成功、しかし批評家からは高い評価を得て、晩年の大作となった。イブ・モンタンがモンタン自身の役で出演するマルセイユを舞台としたミュージカル『想い出のマルセイユ』(1988)が、最後の映画監督作品となる。死の直前に、妻のアニエス・バルダがドゥミのナントでの少年時代を映画化した『ジャック・ドゥミの少年期』(1991)にドゥミ自身として出演している。
[芳野まい]
資料 監督作品一覧
冷淡な美男子 Le bel indifférent(1957)
グレヴァン蝋美術館 Musée Grévin(1958)
ローラ Lola(1961)
新7つの大罪~「淫乱の罪」 Les sept péchés capitaux - La luxure(1962)
シェルブールの雨傘 Les parapluies de Cherbourg(1963)
天使の入江 La baie des anges(1963)
ロシュフォールの恋人たち Les demoiselles de Rochefort(1966)
モデル・ショップ Model Shop(1968)
ロバと王女 Peau d'âne(1970)
ハメルンの笛吹き The Pied Piper(1971)
モン・パリ L’événement le plus important depuis que l'homme a marché sur la lune(1973)
ベルサイユのばら Lady Oscar(1978)
都会のひと部屋 Une chambre en ville(1982)
パーキング Parking(1985)
想い出のマルセイユ Trois places pour le 26(1988)
『Camille TaboulayLe cinéma enchanté de Jacques Demy(1996, Cahiers du cinéma, Paris)』