シェーストレーム(読み)しぇーすとれーむ(英語表記)Victor Sjöström

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シェーストレーム」の意味・わかりやすい解説

シェーストレーム
しぇーすとれーむ
Victor Sjöström
(1879―1960)

スウェーデンの映画監督、俳優。もと舞台俳優であったが、1912年から映画監督を始め、スウェーデン無声映画の黄金時代の代表者の一人となる。『波高き日』(1916)の壮大な漁民叙事詩でまず知られ、『生恋死恋』(1918)のラップランドの自然と愛欲の姿の厳しさはまた前人未到の映画美を現出した。さらに『霊魂の不滅』(1920)の二重焼きの技術を芸術的に駆使した幽明の世界の神秘譚(たん)こそ、彼独自の北欧的神秘主義極致というべきものである。のちアメリカに渡り、『風』(1928)の名作をつくったが、トーキー以後は俳優の仕事に専念し、ベルイマン監督の『野いちご』(1957)などに出演した。

飯島 正]

資料 監督作品一覧

波高き日 Terje Vigen(1916)
生恋死恋 Berg-Ejvind och hans hustru(1918)
感激の夜 Klostret i Sendomir(1920)
霊魂の不滅 Körkarlen(1920)
愛の坩堝 Vem dömer(1921)
燃ゆる嫉妬 Eld ombord(1923)
殴られる彼奴(あいつ) He Who Gets Slapped(1924)
故郷の土 The Tower of Lies(1926)
真紅の文字 The Scarlet Letter(1926)
風 The Wind(1928)
悪魔の仮面 The Masks of the Devil(1928)

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「シェーストレーム」の意味・わかりやすい解説

シェーストレーム
Victor Sjöström
生没年:1879-1960

スウェーデンの映画監督。〈北欧映画の神秘主義〉を世界に印象づけた名作《霊魂の不滅》(1921)によって知られるサイレント時代の巨匠。舞台俳優から映画界入りし,俳優兼監督として《波高き日》(1917),《生恋死恋》(1918),そしてとくに二重露出の映像効果を最大限に生かした《霊魂の不滅》(1939年にフランスでジュリアン・デュビビエ監督により《幻の馬車》の題で再映画化)等々を発表。1923年,ハリウッドに招かれて,グリフィス監督の映画のヒロインだったリリアン・ギッシュ主演の《真紅の文字》(1925),《風》(1928)など〈サイレント末期の傑作〉を撮り,なかでも《風》は〈サイレント映画であるにもかかわらず,突風のうなり,ガラス窓に吹きつけられる砂の音が聞こえるような気がする〉迫真の名作としてジョルジュ・サドゥールの《世界映画史》に記されている。トーキー時代に入ってからは低迷し,30年にスウェーデンに帰った後もほとんど俳優としての出演作ばかりで,イングマル・ベルイマン監督が彼のために書いた《野いちご》(1957)の主人公の老人の役を最後にその映画人生を終えた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のシェーストレームの言及

【スウェーデン映画】より

…ジョルジュ・サドゥールをはじめ,世界の映画史家がスウェーデン映画をその北欧的な〈神秘主義〉によって定義している。レスリー・ハリウェルはそれを〈ロマンティックなペシミズム〉と言い換えているが,いずれにせよ,そうした傾向は伝説と現実の微妙な交錯を特色としたスウェーデンの女流作家ラーゲルレーブの小説を〈感動的な造形美〉に転化したビクトル・シェーストレーム(《沼の家の娘》1917,《霊魂の不滅》1920)とマウリッツ・スティルレル(《吹雪の夜》1919,《イェスタ・ベルリング物語》1924)によっていち早く世界に知られ,サイレント映画史の輝かしい1ページを飾った。しかし,1920年代半ばにはこの2人はハリウッドに吸収され(デビュー当初のグレタ・ガルボもいっしょに連れ去られた),そしてやがてトーキー時代に入るや,少数言語であるスウェーデン語の映画は海外市場への進出を阻まれ,こうして40年代末までスウェーデン映画にはほとんど空白の時代が続くことになる。…

※「シェーストレーム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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