彼奴(読み)アイツ

デジタル大辞泉 「彼奴」の意味・読み・例文・類語

あ‐いつ【奴】

[代]《「あやつ」の音変化》
三人称人代名詞第三者軽蔑けいべつして、または親しみの気持ちを込めてぞんざいに言う語。あのやつ。やつ。「彼奴はそういう奴だ」
遠称指示代名詞遠くのもの、または話し手・聞き手がすでに知っているものをさして、ややぞんざいに言う語。あれ。「彼奴をとってくれ」
[類語]そいつ彼氏彼女此奴こやつこいつ其奴そやつ彼奴かやつきゃつやつやっこさんこの方この人その方その人あの方彼方あちらあの人

きゃつ【奴】

[代]《「かやつ」の音変化》三人称の人代名詞。主として男子をののしったり親しみをこめたりしていう語。あいつ。やつ。「これは彼奴仕業だな」
[類語]彼氏彼女此奴こやつこいつ其奴そやつそいつ彼奴かやつあいつやつやっこさんこの方この人その方その人あの方彼方あちらあの人

か‐やつ【奴】

[代]三人称の人代名詞。ののしっていう語。きゃつ。あいつ。
「―が方の者ども(=敵方ノ兵)いと多く死にけるは」〈大鏡道隆
[類語]彼氏彼女此奴こやつこいつ其奴そやつそいつきゃつあいつやつやっこさんこの方この人その方その人あの方彼方あちらあの人

あ‐やつ【奴】

[代]三人称の人代名詞。ののしったり、あなどったりするときのやや古めかしい言い方。あいつ。きゃつ。「彼奴にできる訳がない」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「彼奴」の意味・読み・例文・類語

あ‐いつ【彼奴】

  1. 〘 代名詞詞 〙 ( 「あやつ」の変化したもの。話題の人物をののしったり、遠慮なく言ったりする場合、または乱暴な話し方事物を指す場合に用いる ) 他称。話し手、聞き手両者から離れた人、事物などを指し示す(遠称)。
    1. [初出の実例]「をくひゃうものてをるあいつは」(出典:漢書列伝竺桃抄(1458‐60)陳勝項籍第一)
    2. 「Aitçu(アイツ)、または、aitçume(アイツメ)。アイツメガ。〈訳〉あの男。軽蔑卑下を伴って言う」(出典日葡辞書(1603‐04))
    3. 「さうか、彼女(アイツ)此頃は浮れ歩いてやがる」(出典:何処へ(1908)〈正宗白鳥〉七)

きゃつ【彼奴・奴】

  1. 〘 代名詞詞 〙 他称。話し手、相手から離れた人をののしってさし示す語。しゃつ。かやつ。あいつ。
    1. [初出の実例]「きゃつ、たしかにめしこめて勘当せよ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)三)
    2. 「先づきゃつから打ち殺せ」(出典:浄瑠璃・平家女護島(1719)四)

彼奴の語誌

院政・鎌倉期に生じた代名詞で、近世でも引き続き使用された。平安時代からある「彼奴(かやつ)」のつづまったものといわれ、「きゃつら」「きゃつばら」の複合形も生じた。


か‐やつ【彼奴】

  1. 〘 代名詞詞 〙 他称。話し手、相手以外の者をいやしめていう語。ののしり表現に用いる。きゃつ。
    1. [初出の実例]「ほととぎす、おれ、かやつよ。おれ鳴きてこそ、我は田植うれ」(出典:枕草子(10C終)二二六)

彼奴の補助注記

平安時代、俗語として用いられているが、これが音変化した「きゃつ」は中世以降使用され、特に近世に用例が多い。


あ‐やつ【彼奴】

  1. 〘 代名詞詞 〙 他称。第三者をののしっていう。あいつ。きゃつ。
    1. [初出の実例]「あやつとらへよと、みすの内よりいひ出だし給ひたりければ」(出典:十訓抄(1252)一)

か‐いつ【彼奴】

  1. 〘 代名詞詞 〙 他称。あいつ。かやつ。卑しめていう語。
    1. [初出の実例]「なんとしてか、かいつがたのしうなりつらうそ」(出典:漢書列伝竺桃抄(1458‐60))

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