スクオッター(その他表記)squatter

翻訳|squatter

改訂新版 世界大百科事典 「スクオッター」の意味・わかりやすい解説

スクオッター
squatter

元来はオーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ植民地の官有地への不法入植者を指す。貧しい元流刑囚などが,盗んだ家畜をこの不法占拠地内で飼育した。しかし1829年に同植民地内に19の郡が設定され,これらの土地以外への入植が禁じられると,富裕な牧畜業者も郡内の土地だけでは狭すぎるために,郡の境界を越えて官有地を不法占拠した。35年には植民地議会議員のほぼ全員がスクオッターとなってしまい,スクオッターの呼称は40年ころから一転して植民地の上流階級を指すようになった。36年に19郡以外の土地の占拠が年10ポンドの名義料で合法化され,47年に14年間の賃借りと土地購入権が認められると,スクオッターは粗末だった住居を豪邸に建てかえ,永住の決意を示した。

 歴代の植民地政府は小農層育成に力をいれ,種々の土地政策(1850-60年代にセレクションselectionと呼ばれる小区画農地を1エーカーわずか1ポンドで払い下げるなど)でスクオッターの勢力削減を図ろうとした。しかしスクオッターはダミーを使って水源のあるセレクションを押さえるなどして対抗し,セレクターselectorと呼ばれた小農層と激しく対立した。困窮したセレクター層からのブッシュレンジャーbushranger(追いはぎ)の大量発生は,この対立の副産物である。

 20世紀前半になると,農産物の国際市場を牛耳るベスティ社などの国際食肉資本がスクオッターにとって代わり,大きく彼らの力をそいだ。態勢を立て直すため,スクオッターたちは1910年代から政治意識を強め,小農層もとりこんだ農民政党,地方党を結成し,30年代からは保守自由党と連携して,労働党と対抗してきた。なお今日では,スクオッターをパストラリストpastralistと呼ぶことが多い。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のスクオッターの言及

【社会学】より

…これまで意思決定機構から排除され疎外されていた底辺の民衆が,それへの参加を求めるコミュニティ・コントロールの動き。あるいは,閉鎖的な核家族の枠を突破して疑似拡大家族の構成をとるコミューン運動や,土地や家屋を不法占拠して共同で生活管理をするスクォッターsquatterの活動。これらはいずれも〈管理社会化〉や〈一次元社会化〉が進展するなかで,新たなゲマインシャフトを建設しようとする〈自覚的な実験的実践〉だった。…

【オーストラリア】より

…1840年代に入って元流刑囚とカレンシー・ラッドcurrency lad(イギリス本国生れをスターリングsterlingと呼んだのに対して,植民地生れをこう呼んだ。流刑囚の子弟が多い)の数が自由移民を上回ると,この対立はスクオッター(大牧場主)と小農場主および毛刈職人などの移動労働者との対立に転化し,51年に始まるゴールドラッシュによる人口急増でいっそう拍車がかかった。イギリス本国はスクオッターの土地占有を抑えるべく,初期には株式組織の土地開発会社,61年には新たな土地政策によってセレクターselectorと呼ばれる小農場主を創出した。…

【社会学】より


[社会学の危機]
 1960年代後半から70年代前半にかけて,西欧社会学界(日本を含む)は厳しい批判と真摯(しんし)な内省を体験し,かつてないほどの分裂と混迷に陥った。ある者はこのような混沌状況の出現をもって〈(西欧)社会学の危機〉と呼び,またある者は〈社会学のアイデンティティ喪失〉と名付けた。それから10年経った80年代前半の今日,社会学の混沌と危機はまだ終息していない。 もともと,社会学は社会諸科学のなかでも〈遅れてきた学問〉であるだけに,学の基本的性格をめぐっての論争や対立はけっして珍しいものではない。…

【都市再開発】より

…これらと従来からの全面更新型事業との適切な組合せによって,都市再開発方式のいっそうの普遍化が図られている。既成市街地を対象とする整備手法としての総合的改善事業は,現存ストックから出発して住民の自助努力に公的施策を結合する現実性と広い適用性のある方式として,膨大なスラムとスクオッターsquatter(不法占拠者)街に悩んでいる発展途上諸国の市街地整備でも用いられている。
[保存的再開発]
1980年代から,都市再開発のあり方を変える大きな世界潮流が生じている。…

※「スクオッター」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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