セネット(読み)せねっと(その他表記)Mack Sennett

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セネット」の意味・わかりやすい解説

セネット
せねっと
Mack Sennett
(1880―1960)

アメリカ映画製作者監督。本名Micheal Sinnott。カナダのケベック近郊リッチモンド生まれ。1897年アメリカに行き、演劇界に身を投じるが、しだいに映画にひかれ、1909年、D・W・グリフィスが在籍するバイオグラフ社に入り、1912年独立してキーストン社を設立した。喜劇に特異な感覚をみせて、キーストン警官隊(コップス)のフォード・スターリングやでぶのロスコー・アーバックルらのスピード感あふれる追っかけ、水着美人、パイ投げ、狂騒に満ちた破壊などを駆使して純粋に動きだけに徹したスラプスティック・コメディをつくり続けた。これらはキーストン喜劇、セネット喜劇ともよばれた。チャップリン、キートン、ベン・ターピンら、のちに名をなす喜劇の人気者たちの大部分が彼の下から育つなど、セネットがアメリカ喜劇に残した足跡の大きさは計り知れない。

[出口丈人]

資料 監督作品一覧

水の妖精 The Water Nymph(1912)
強敵 A Strong Revenge(1913)
ヴァングヴィル警察 The Vangville Police(1913)
恋は泥沼 A Muddy Romance(1913)
コーヘン軍旗を守る Cohen Saves the Flag(1913)
ベニスにおけるベビーカー競争 Kid Auto Races at Venice(1914)
メーベルの身替り運転 Mabel at the Wheel(1914)
もつれタンゴ Tango Tangles(1914)
つらあて A Busy Day(1914)
衝突(運命の木槌) The Fatal Mallet(1914)
ノック・アウト The Knockout(1914)
醜女の深情け Tillie's Punctured Romance(1914)
配管工 The Plumber(1914)
アンブローズ怒る Ambrose’s Nasty Temper(1915)
略奪恋愛 Love, Loot and Crash(1915)
我らが熱血署長 Our Dare-Devil Chief(1915)
デブ嬢の海辺の恋人たち Miss Fatty's Seaside Lovers(1915)
多芸な悪漢 A Versatile Villain(1915)
安食堂のペテン A Hash House Fraud(1915)
メーベルの先生 The Little Teacher(1915)
ガッスルの潜水艇 A Submarine Pirate(1915)
デブ君の漂流 Fatty and Mabel Adrift(1916)
デブ君の焼餅 He Did and He Didn't(1916)
風呂桶危機一髪 Bath Tub Perils(1916)
デブの料理番 The Waiter’s Ball(1916)
危険な娘 The Danger Girl(1916)
悪漢の商売道具 A Scoundrel's Toll(1916)
動乱の街 Villa of the Movies(1917)
戦争ごっこ Yankee Doodle in Berlin(1919)
臨時雇いの娘 The Extra Girl(1923)
ノートルダムの仲立ち男 The Half-Back of Notre Dame(1924)
お山の大将 Yukon Jake(1924)
最狂自動車レース Lizzies of the Field(1924)
走れよ娘 Run, Girl, Run(1928)
グッドバイ・キッス(君よさらば) The Good-Bye Kiss(1928)
チャンスよもう一度 One More Chance(1931)
致命的な一杯 The Fatal Glass of Beer(1933)
内気な青年 The Timid Young Man(1935)

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改訂新版 世界大百科事典 「セネット」の意味・わかりやすい解説

セネット
Mack Sennett
生没年:1880-1960

アメリカのサイレント喜劇映画(スラプスティック)の製作者。本名はマイケル・シノットだが,フランスの喜劇王マックス・ランデルにあやかってマック・セネットを名のったといわれる。カナダのケベック近郊のリッチモンドに生まれ,ニューヨークのボードビル劇場で脇役をつとめ,1908年にバイオグラフ撮影所へ入社。D.W.グリフィスの下で喜劇俳優となり,また同監督の《The Lonely Villa》(1909)の脚本を書いたりした。12年,アダム・ケッセルとチャールズ・ボーマンが新設したキーストンという映画会社のコメディ部門の主宰者として起用され,フォード・スターリング,メーベル・ノーマンド,フレッド・メース,ロスコー・アーバックル,マック・スウェイン,チャールズ・マーレーらの珍優陣による〈パイ投げ〉〈キーストン・コップス(警官隊)〉〈水着美人〉等々を駆使した集団スラプスティックが売りものの,いわゆるキーストン・コメディの時代をひらく。初期には監督もしたが,やがて製作,監修の立場で指揮をとり,14年には舞台からチャップリンを呼び,大スターとしてのスタートを切らせた。師匠のグリフィスと同様,才能を発掘することにかけては天才的で,バスター・キートン,ベン・ターピン,ハリー・ラングドン以下,セネットの門を経たコメディアンは数知れない。15年トライアングル社に参加,トーキー以後も35年まで製作を続けたが,最盛期はキーストン時代だった。37年度アカデミー賞の特別賞を受賞。自伝に《キング・オブ・コメディ》(1955)がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セネット」の意味・わかりやすい解説

セネット
Sennett, Mack

[生]1880.1.17. カナダ,リッチモンド
[没]1960.11.5. ハリウッド
アメリカの映画制作者,監督,俳優。本名 Michael Sinnott。舞台や寄席を経て,1909年バイオグラフ社に入り喜劇映画俳優となる。 12年キーストン社の設立に参加し,有名なキーストン喜劇を生み出す。従来の舞台劇的喜劇をロケーションにより広く野外に解放し,映画技術やトリックによるギャグを十分に取入れた 1910年代のスラップスティック・コメディの全盛時代を築いた。またキーストン・コップス (警官隊) や水着美人,パイ投げの名物を生み出したり,メイベル・ノーマンド,ベン・ターピン,ロスコー・アーバックル,キートンロイドチャップリンら数多くの喜劇俳優を世に送って大衆の圧倒的支持を受けた。

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百科事典マイペディア 「セネット」の意味・わかりやすい解説

セネット

米国の映画監督,製作者。アメリカ映画独特のスラップスティック(どたばた喜劇)の創始者。1912年ごろからキーストン社で監督・製作を手がけ,〈パイ投げ〉〈キーストン・コップス〉〈水着美人〉等を登場させた〈キーストン・コメディ〉を生み出した。また,米国巡業中のチャップリンを見いだして契約,その主演作品を1914年から発表。

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世界大百科事典(旧版)内のセネットの言及

【スラプスティック】より

…スラプスティックは,初期の〈追っかけもの〉の正統な後継者であり,のちに黄金時代を築いたチャップリン,ロイド,キートンなどの喜劇の正統な祖先でもあるというのが映画史的な評価になっている。それは,厳密にいえばコメディというよりもむしろバーレスク,もしくはファース(笑劇)とよぶべきものであったが,その代表的なものは,マック・セネットがキーストン社(1912設立)で製作した〈キーストン・コメディ〉とよばれるスラプスティックである。セネットは自伝《キング・オブ・コメディ》(1954)のなかで,スラプスティックを発明したのはフランス人であり,なかでもマックス・ランデルを中心にしたパテー社の喜劇から自分は最初のアイデアを盗んだのだと述べ,また,誇張したどたばた的所作,たとえば〈コマ落し〉や逆回転のような映画だけに可能な技術やトリックはD.W.グリフィスから学びとったという。…

【チャップリン】より

…17歳のときイギリスで人気を集めていた喜劇一座の劇団員となり,踊り,歌,道化,ものまね,パントマイムその他,のちの喜劇俳優としての成功を支えることになる基本的な技術とスタイルをすべて身につけた。 1912年,アメリカ巡業中に,勃興期にあったアメリカの喜劇映画のパイオニアであったマック・セネットに認められて,13年にキーストン社に入り,《成功争い》(1914)に初出演した。のち,キーストン,エッサネイ,ミューチュアル各社で数多くの作品に出演したが,そのほとんどで監督を兼ね,ちょびひげ,山高帽,だぶだぶのズボン,ステッキという独特の扮装と演技で個性をつくりあげ(この〈放浪紳士〉の扮装はフランスの喜劇人マックス・ランデルのスタイルを浮浪者風にアレンジしたものといわれる),アメリカばかりでなく世界中で人気を得た。…

※「セネット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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