タール癌(読み)たーるがん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タール癌」の意味・わかりやすい解説

タール癌
たーるがん

コールタールを繰り返し塗布することによって発生させた皮膚癌をいう。1914年(大正3)山極(やまぎわ)勝三郎、市川厚一は、600日という長期間にわたってウサギの耳にコールタールを毎日毎日反復塗布して、ついにウサギの耳に皮膚癌を発生させることに成功した。これは、人工的、実験的に癌を発生させた最初のものであり、日本の医学が世界に誇る業績の一つとして有名である。この実験結果は、癌の発生に関するドイツの病理学者ウィルヒョウの刺激説を実証したものであり、これ以後、コールタールの中に含まれている芳香族炭化水素化合物が抽出あるいは合成され、3・4‐ベンツピレンベンゾピレン)、1・2・5・6‐ジベンゾアントラセン、メチルコラントレンなどの化学的発癌物質が発見され、発癌の実験病理学的研究が長足に進歩した。また、これに相当する人体に関するものとしては、1775年イギリスのポットによる煙突掃除人の陰嚢(いんのう)に皮膚癌がおこりやすいという報告がある。これは、ある職業に従事する人に特定な癌が多発するという研究であり、近来注目されている職業癌のはしりということができる。

渡辺 裕]

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百科事典マイペディア 「タール癌」の意味・わかりやすい解説

タール癌【タールがん】

動物の皮膚にコールタールを塗布して発生させた人工癌石炭を常用していた西欧では煙突掃除人に陰嚢癌が多いが,これに注目してタール癌形成の多くの試みがなされた。最初に成功したものは,山極勝三郎,市川厚一が1915年ウサギの耳につくった皮膚癌で,これを契機にコールタール中の発癌物質(多核芳香族炭化水素)の研究が,英国のケナウェーE.Kennaway夫妻らにより進められた。
→関連項目山極勝三郎

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