翻訳|benzopyrene
ベンツピレン、ベンズピレンともいう。5個のベンゼン環が縮合した芳香族炭化水素で、2種の異性体が存在する。ともに淡黄色の結晶でコールタール中に含まれる。その一つであるベンゾ[a]ピレンはベンゼン中で蛍光を発する。水には不溶であるがエタノール(エチルアルコール)には微量ながら溶ける。コールタールには発癌(はつがん)性があり、コールタールとの接触の多い煙突掃除夫が癌にかかりやすいことが、1775年にイギリスのポットPercival Pott(1714―1788)により初めて指摘された。その後、ピッチ、鉱油など煤(すす)以外にも発癌性物質が含まれることがわかった。1933年にクックJ. W. Cookがピッチからこの物資を分離して取り出し、動物に皮膚癌を発生させる作用があることをみいだした。現在ではベンゾ[a]ピレンそのものは発癌作用をもたないが、酸化されて9,10-エポキシドになり人体のDNA(デオキシリボ核酸)と反応して発癌の原因になるとされている。そのほか多環式縮合芳香族炭化水素類のなかにも、化学的刺激によって人工的な癌をつくりうるものが多く指摘されている。さらに多くの染料、とくにアゾ染料にも発癌性があることがみいだされた。このほか、たばこの煙のなかにも数種のピレンを骨格とする4~5環式芳香族炭化水素が含まれている。
[向井利夫]
3,4-benzopyrene.C20H12(252.32).発がん性物質.石炭タール中に約1.5% 存在するほか,自動車の排気ガス,タバコの煙,くん製食品などにもごく微量に含まれる.ピレンに無水コハク酸をフリーデル-クラフツ閉環させて合成される.黄色の結晶.融点179.9~180.3 ℃,沸点310~312 ℃(1.33 kPa).水に不溶,ベンゼン,トルエン,キシレンに可溶,エタノールに微溶,水に不溶.がんの研究に広く使われており,その分析には,エアサンプラーや,そのほかのばいじん捕集器で集められたばいじんをベンゼンで抽出し,抽出液を減圧濃縮したうえ,クロマトグラフィーで単離し,365~403 nm の光吸収,または蛍光を測定して定量する.それ自体には反応性はないが,酵素反応によって生成する7,8-ジオールや9,10-エポキシドがDNA中のグアニン塩基と付加体を形成することが確かめられている.[CAS 50-32-8]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…ベンゾ[a]ピレンbenzo[a]pyreneともいう。化学式C20H12。芳香族炭化水素の一つ。ベンゼン環が5個つながった構造をもち,水に不溶でベンゼンなどの有機溶媒に可溶である。コールタールから抽出される強力な発癌作用をもつ物質として知られている。 コールタールやピッチを取り扱う労働者の顔面,頸部,陰囊などに皮膚癌がみられることがイギリスでは早くから注目されており,18世紀にはロンドンの医師ポットP.Pottによる報告が出されている。…
※「ベンゾピレン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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