翻訳|extraction
溶媒抽出ともいう。液体あるいは固体の混合物(抽料)に溶剤(抽剤)を加え,その混合物中からある特定の物質(抽質)のみを取り出し,他の物質と分離する操作で,単位操作の一つである。抽出によって得られる溶剤を主とする液を抽出液といい,これには目的とする物質が溶質として多く含まれることになる。原料混合物が液体であるときを液液抽出,固体であるときを固液抽出または固体抽出という。液液抽出の場合には,原液と溶剤とが二つの相を形成し,比重の差により2相に分離するので,希望する物質すなわち溶質を選択的に溶剤相に移動分離することができる。潤滑油精製や芳香族化合物の分離,石油化学工業などにおいて大規模に行われている。固液抽出の例としては,植物油をヘキサンなどの溶剤で抽出したり,豆類を粉砕し,アルコールその他で液体部分を取り出すなどの操作がある。鉱物などに強酸をはたらかせて必要な成分を溶解して取り出す操作も固液抽出に含めるのが普通である。
抽出操作自体はエネルギー消費が少ないが,かえって溶剤回収におけるエネルギー消費が大きくなる場合があるので,プロセス全体として省エネルギーを考える必要がある。
液液抽出においては,多くの場合物理的な溶解度の値が基礎データとして必要である。互いに接している油水2相中の濃度の平衡関係を表現するには種々の方法があるが,ABC3成分系に対しては図1のような三角線図が用いられる。図において三角形の頂点は純粋な3成分を示すが,C点が抽質を示すように表現するのが慣習である。AとBは抽剤,原溶媒のどちらかを示している。曲線DPEは溶解度を示し,その内側の領域では溶液は原溶媒相と抽剤相とに分離する。曲線の外側は均一に混合する領域である。横軸はBの重量分率(またはモル分率)XBを,縦軸はCのそれXCを示す。XA=1-XB-XCからAの重量分率(またはモル分率)を計算することができる。ここで,2相に分かれる混合溶液Mを静置すれば,NとLで示される二つの相が生成し,図からそれらの組成が求まる。このように2相の平衡関係を示す線分をタイラインと呼んでいる。以上のような平衡関係を用いて理想段における抽出のようすを計算することができる。一方,物理的な液液平衡によらない錯体結合やイオン結合を用いる金属抽出においては,抽剤の交換容量や抽剤と抽料の結合速度が抽出の割合に影響を与えることになる。
抽剤の選定に関しては次の点を考慮すべきである。(1)選択性に優れていること,(2)抽剤への抽質の溶解度が大きいこと,(3)原溶媒への抽剤の溶解度の小さいこと,(4)抽質との分離の容易なこと,(5)抽料との密度差が大きく,2相の分離が容易なこと,(6)化学的に安定で,腐食性,引火性,毒性のないこと,(7)安価なこと,などである。
ミキサー・セトラー型のものと塔型のものとがある。ミキサー・セトラーは図2のようにかくはん(攪拌)槽(ミキサー)と静置槽(セトラー)の組合せから成っている。この一組が抽出プロセスの一段であるが,これをいくつか並べて多段連続プロセスにも用いられる。ミキサー・セトラーは装置の大きさや操業の自由度が大きいので,各分野で広く利用されている。塔型抽出装置は,油と水のような軽液と重液を連続的に塔内で接触させるもので,軽液を液滴の形で分散相とし,重液を連続相とすることが多い。その基本的な構造は図3のスプレー塔である。スプレー塔は連続相の軸方向の混合が著しく,これが装置の性能を下げる効果があるので,その対策として周壁部に邪魔板を設けて多段型にするくふうが数多く提案されている。たとえば回転する翼や円板を用いて段内における2相の接触をよくしたもの(メキシコ塔,回転円板抽出塔など),スプレー塔を多孔板により多段化したもの(多孔板抽出塔),さらにこれに脈動を与えて,多孔板からの軽液の液滴の生成をスムーズに行い,かつ分散を均一にするように考案されたパルスコラムなどが開発されている。また,2相の分離に時間のかかる抽出系のためには,遠心力により分離速度を上昇させる遠心型抽出器も各種開発されている。
固体抽出は,固体粒子と抽剤とを接触させるのであるが,固体内の拡散速度が小さいので固体内において抽質の濃度分布が生じ,これが時間の経過とともにゆっくり変化する。この点が,液液抽出における滴内濃度分布が微小滴および境膜部を除いてほぼ均一と考えられていることと本質的に異なっている。固体抽出の装置としては,かくはん槽のほかに固定層や移動層が用いられる。具体的な形式については多くのくふうがなされている。比較的簡単な構造のケネディ抽出器Kennedy extractorを図4に示す。
執筆者:中原 勝儼+古崎 新太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
固体または液体の中から、特定の物質だけを溶媒(溶剤)あるいは試薬などを用いて取り出す操作をいう。たとえば、植物などの薬用成分を水あるいはエタノール(エチルアルコール)、エーテルなどの有機溶媒によって抽出するなど、混合物中から特定成分だけを溶解し、分離する。チャからカフェイン、花から花の色素を抽出するのは、これらを水と煮沸することによって可能である。またホウレンソウをエタノール中で振るとクロロフィルを抽出することができる。このような場合のほか、酸、アルカリによる反応、あるいはキレート生成などの化学反応を利用する複雑な場合もある。
液体から液体を抽出する、いわゆる液‐液抽出では、分液漏斗(ろうと)などにより、よく振ってから分離することによって抽出する。固体から抽出する、いわゆる固‐液抽出では、ソックスレー抽出器などで自動的に行う。
工業的にも、潤滑油の精製、種子からの各種食用油の抽出など、多くの操作がなされている。
[中原勝儼]
液体または固体試料に溶媒を加え,試料中の特定物質を選択的に溶媒相に移してほかの物質より分離すること.一般に,固体では抽出速度が遅いので,たとえばソックスレー抽出器などを用いた連続抽出が採用される.液-液抽出はきわめて広い応用範囲がある.これは原液と溶媒とが,比重差により2相に分離し,溶質の原液と溶媒への分配係数に大きな差があるため,溶媒に濃縮されることによる.液-液系を液-液抽出,固-液系を固体抽出または浸出という.液-液抽出操作は,
(1)抽料(原料)相と抽剤(溶剤)相とを混合接触させ,抽剤中に抽質(目的成分)を移動させる,
(2)その混合液を静置して,抽残液と抽出液の2相に分離させる,
(3)抽出液を抽剤と抽質に分離して目的成分を得る,
(4)抽残液からの抽剤の回収,
などの過程からなる.固体抽出は,
(1)固体層に抽剤を注いで抽出を行う方法(貫流式),
(2)固体を抽剤中に分散させて抽出する方法(浸漬式),
の二通りが行われている.[別用語参照]溶媒抽出
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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