改訂新版 世界大百科事典 「ダシャハラー」の意味・わかりやすい解説
ダシャハラー
Daśaharā
ヒンドゥー教の祭りの一つ。アーシュビン月(9~10月)の満月に向けて10日間行われる。秋の始まりを祝う祭りで,秋まきの小麦の予祝を含み,またそれぞれの家業で用いる道具を供養する仕事納め,仕事始めの要素ももつ。初めの9日間はドゥルガー・プージャーと呼ばれ,人々は断食し,ドゥルガー女神に賛歌,音楽,舞踊をささげる。最終日には神像を川で沐浴させる場合もある。これはドゥルガー女神が,あらゆる男神たちから武器を贈られて,神々をも苦しめた水牛の魔マヒシャを殺した故事によるという。またこの時期はラーマが羅刹ラーバナを倒した時ともいわれ,9日目のしめくくりの日には,ラーマを記念した祭りを行う場合が多い。この日は〈ラーマリーラー〉と呼ばれ,《ラーマーヤナ》を朗誦し,素人劇団によるラーマ劇が演じられ,夜にはラーバナとその弟の巨大な人形が焼かれる。いずれにせよ魔に対する神々の勝利が祝われるわけである。10日目は〈勝利の10日目〉と呼ばれ,人々は神々,とくにラーマにプージャー(神像礼拝儀礼)をささげる。祭りの場にはそれぞれの家業で用いる道具が置かれ,祭りの初日から小さな器にもやし状に栽培してきた小麦の芽をその上に供える。この祭りは戦勝を祝うものなので,武人たちにも重視され,ネパールの軍隊では近代兵器にも供養が行われる。
執筆者:高橋 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報