日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダッリーゴ」の意味・わかりやすい解説
ダッリーゴ
だっりーご
Stefano D'Arrigo
(1919―1992)
イタリアの詩人、小説家。シチリア島東海岸の町アリの生まれ。1942年に「ヘルダーリン論」を提出してメッシーナ大学文学部を卒業。46年からローマに住み、もっぱら美術批評を新聞・雑誌などに発表。かたわら、故郷の日常生活に認められる神話的世界の残滓(ざんし)に注目し、特異な民俗的風習を描いた詩集『シチリアの掟(おきて)』(1957)を出版した。シチリア島東海岸は英雄オデュッセウス(ユリシーズ)が船で北上した海域として知られるが、とりわけ潮流の渦巻くメッシーナ海峡は、船乗りたちの恐れる美声の魔女セイレンの住処(すみか)であった。ほとんど無名に近かったダッリーゴの名を一躍世界に知らしめたのは、壮大で難解な長編小説『海獣しゃち』(1975)である。彼は15年の歳月をこの作の完成に注ぎ、出版元のモンダドーリ社は20世紀最大の文学的事件の一つとして大々的に喧伝(けんでん)したため、「文学的な賭(か)け」とまでいわれた。小説内の時間は短く、夢、造語、方言、古代ギリシアの神話などに満ちていること、また海獣の象徴性から、J・ジョイスやメルビルの作と比肩される。新作『貴婦人の鑑(かがみ)』(1985)は、前作ほど難解ではない。
[河島英昭]