イギリスの作家D・H・ローレンスの10編の長編中、最後の重要な作品。1926年10月フィレンツェ郊外で筆をおこし、1928年1月8日に完成。私家版としてイタリア人の手により出版。決定稿の前に2種の完全な稿本があり、現在『初稿チャタレイ』(1944、1972)と『ジョン・トマスとジェーン夫人』(1972)の題で知られる。コンスタンス・リード、通称コニーはクリフォード・チャタレイ准男爵と結婚するが、戦傷で下半身不随の夫は、冷ややかさとかたくなさの象徴そのもので、やがてコニーは森番のオリバー・メラーズに真実の愛情をみいだし、古い自意識から解放されてゆく。作者自身の予見どおり、作中の大胆な性描写が問題となり、日本でも「チャタレイ事件」として論議をよんだ。1950年(昭和25)9月、訳者伊藤整(せい)と出版社(小山(おやま)書店)社長小山久二郎(ひさじろう)が起訴され、一審は訳者無罪、出版社は25万円の罰金を科されたが、1957年3月、最高裁は二審判決どおり、訳者にも10万円の罰金刑を科した。しかしその後まもなく、アメリカ(1959)、イギリス(1960)、旧西ドイツ(1961)で完本と完訳の出版が可能になった。
[羽矢謙一]
『『チャタレイ夫人の恋人』(羽矢謙一訳・講談社文庫/伊藤整訳・新潮文庫)』
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