ツリアブ(読み)つりあぶ(その他表記)beeflies

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツリアブ」の意味・わかりやすい解説

ツリアブ
つりあぶ / 吊虻
長吻虻
beeflies
bombylid

昆虫双翅(そうし)目短角亜目アブ群ツリアブ科Bombyliidaeの昆虫の総称。この科の昆虫は中形から大形で、(1)体は太くて短く毛深いもの、(2)細長くて無毛のもの、という二つの型があるが、両型とも口吻(こうふん)は細長く、訪花性である。複眼は大きく、雌でも雄のようにしばしば合眼的、単眼はつねに存在する。はねは細長く、翅端部はとがり、斑紋(はんもん)をもつものが多い。はねを速く動かして飛び、空中の一点に静止することができる。幼虫は寄生性で、各種の土壌昆虫の卵、幼虫、蛹(さなぎ)に寄生する。

 代表種のビロードツリアブBombylius majorは、体長10ミリメートル内外で、体が太くて短く、毛深い。日本各地の草原に普通にみられる。スズキハラボソツリアブCephenius suzukiiは、体長20ミリメートル、翅長13ミリメートル。一見ヒメバチに似る。ツリアブ科のほかにもムシヒキアブ科とアブバエ科のなかにもヒメバチに似たものがあるので注意を要する。本種は触角が長くて黒色、口吻は長い。胸部は黒色で両側縁には太い黄褐色条がある。はねは細くてわずかに褐色がかり、前縁部だけが黄褐色で斑紋がなく、翅脈黒褐色。前脚と中脚は短く、後脚のみ長い。腹部は細長く、赤褐色で、背面暗色左右に扁平(へんぺい)で、末端近くで膨らむ。本州に分布する。ニトベハラボソツリアブC. nitobeiは、前種に似るがやや小形で体長13ミリメートル内外。触角の第1節は黄褐色である点で識別できる。

[伊藤修四郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「ツリアブ」の意味・わかりやすい解説

ツリアブ (長吻虻)

双翅目ツリアブ科Bombyliidaeに属する昆虫の総称。英名のbee flyは,成虫の形態や色彩が,ある種のマルハナバチBombusの仲間(英名humble-bee)に似ていることと,幼虫が孤独性のハチの幼虫に寄生するという二つのことによる。世界から約3000種が記録されているが,日本では十数種が知られているにすぎない。成虫の口吻(こうふん)は,ビロードツリアブで代表されるように長いものが多いが,クロバネツリアブのように短い種も含まれている。翅には,斑紋のあるものが多い。幼虫は寄生性で,ハチ,ガ,甲虫,双翅類などの幼虫やバッタの卵などに寄生する。

 ビロードツリアブBombylius majorは,日本全土に分布する普通種で,早春に出現し,日当りのよい雑木林でよく見かける。体長8~12mm。体は黄色の長毛で覆われ,マルハナバチそっくりである。飛翔(ひしよう)しながら長い口吻で吸蜜する。幼虫はヒメハナバチ科の幼虫に寄生する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ツリアブ」の意味・わかりやすい解説

ツリアブ
Bombyliidae; bee fly

双翅目ツリアブ科に属する昆虫の総称。小型ないし中型のアブ。体が短太で毛深く,ややハナバチ類に似るものと,全体が非常に細長くほとんど無毛で,アメバチ類に酷似するものとがある。単眼をもち,複眼は大きい。は長いものが多く,花の蜜を吸うのがみられる。翅は細長く,肢は繊細。幼虫は,地中にすむ昆虫類の卵塊,幼虫,蛹などに寄生するものと,各種のハチの幼虫に寄生するものとがある。ビロードツリアブ Bombylius majorは体長 10mm内外,体は短太で黒く,黄白色の長毛を密生している。吻は非常に長い。翅は基部から前半は黒色で,他の部分は透明である。日本を含む北半球に広く分布し,春に各地で普通にみられる。 (→双翅類 )

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百科事典マイペディア 「ツリアブ」の意味・わかりやすい解説

ツリアブ

双翅(そうし)目ツリアブ科の昆虫の総称。中型のアブで,ハチ類に擬態する種類が多く,ビロードツリアブ類はマルハナバチに,ハラボソツリアブ類はヒメバチ類に似る。花蜜を好み,翅をきわめて速く動かして,一見空中につり下げられたように静止するのでこの名がある。幼虫は他の昆虫の蛹(さなぎ),幼虫等に寄生生活。全世界に約3000種,日本に約20種いる。

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