改訂新版 世界大百科事典 「ヒメバチ」の意味・わかりやすい解説
ヒメバチ (姫蜂)
膜翅目ヒメバチ科Ichneumonidaeに属する寄生バチの総称。日本全国でアゲハヒメバチ,ミズバチ,モンオナガヒメバチ,コンボウアメバチ,アカハラヒラタアブヤドリバチなど800種以上が知られており,膜翅目の中ではもっとも大きなグループの一つである。体長は大きい種類では100mm近くに達し,最小では数mmのものまであり,形や生活のしかたも種ごとで変異に富んでいる。近縁のコマユバチ科とは,その形態や生態もよく似ている。
この科に属する寄生バチは,すべて他の昆虫やクモ類に寄生し,その体を食いつくして成長するので,農林業害虫の天敵として有用なものも多い。寄主としてはクモ類の卵や成虫,脈翅目,トビケラ目,鱗翅目,甲虫目,膜翅目,双翅目などの昆虫の幼虫やさなぎが知られている。どちらかといえば1種類で何種もの寄主に寄生する多食性のものが多いが,特定の寄主や特定の環境と結びついた種類もいる。寄主の体表に産卵し,孵化(ふか)した幼虫は寄主の体の外から摂食する外部寄生性の種類や,寄主の体内に産卵し,幼虫は体の中で成長する内部寄生性のものがある。また植物の茎や葉の上に産卵し,かえった幼虫が通りかかった昆虫に便乗して寄主に到達する便乗型の生活をする種類もある。
外部寄生性の種類では体の後方に長く突出した産卵管をもったものが多いが,これは外部寄生バチは一般的に植物の組織の中か繭の中など被覆された場所にいる寄主を攻撃する場合が多いので,そのような生活に適しているのであろう。便乗型の寄生バチでは,成虫になるまでに死ぬ個体が多いことと関連して産卵数が他の種類に比べて格段に多い。湖沼,渓流などの水底で幼虫時代を送るトビケラ類に寄生するミズバチのグループは,独立したミズバチ科Agriotypidaeとして考えられていたが,現在ではこの科の一員として扱われている。
執筆者:桃井 節也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報