翻訳|proboscis
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
動物の頭部,とくに口付近にあって,突出していたり伸縮できたりする部分を,吻と呼ぶことが多い。さまざまな構造のものがあるが,多くは摂食と運動に用いられ,寄生性の種類では付着,せん孔する働きをする。半索動物の吻は口の前方にある前体部といわれる部分で,前体腔を包んで筋肉が発達し,伸縮して砂泥中にもぐり込むのに役立つ。動吻類,線形虫類,コウトウチュウ類,エラヒキムシ類などの吻は,先端に口をもった体前端部で,後方の体内に引っ込めることができ,表面には一般に大小のとげがある。ホシムシ類の吻も口に続く体前端部が伸長したものであるが,これは口が体内へ落ち込むように裏返しになって引っ込められるので,陥入吻introvertと呼ばれる。ユムシ類の吻は,体の前端の口の周囲が溝状に突出,伸長したもので,体内に引っ込めることはできない。ウミグモ類の吻は,前体部の頭部腹面から口の部分が筒状に突出したもので,中には咽頭に相当する吸囊がある。昆虫類,蛛形(ちゆけい)類にも口の部分が吻状の突出を形成するものがある。腹足類の吻は,口の部分が伸縮できるような管状になったもので,中に口腔,歯舌がある。扁形動物,多毛類,ヒル類などでは,口腔や咽頭が口から外へ反転して突き出せるようになっているものがあり,これも吻と呼ばれる。昆虫類の吻管haustellumなどで構成される吸型口器も吻といわれ,これは口部の付属肢が変形したものである。いずれもさまざまなやり方で主として食物を取り込む働きをする。ひも形動物の吻は独特の構造をもつ器官である。それは,頭部体表あるいは口腔内に開口する細長い盲管で,盲端にとげ針をもつものもあり,体液で満たされた吻体腔の中に収納されている。吻体腔を包む吻鞘(ふんしよう)が収縮すると体液の圧力で盲管が反転してひも状に伸び出し,餌生物に粘着したり毒液を注入したりして食物を捕らえる働きをする。
脊椎動物では〈鼻づらsnout〉のことを〈吻〉と呼ぶが,これは両眼の直前付近から頭部の前端までの領域を漠然と指す。もともと〈吻〉の字は〈くちさき〉を意味するから,口裂や唇は吻の一部とみてもよいが,下顎はふつうこれに含まれない。通常は鼻(鼻腔を含む)がこの領域の中心部をなすが,サメ,エイのように鼻が吻の下面に位置することもある。鳥類ではこの部分は必ずくちばしになっているので,ふつう,吻とは呼ばない。またヒトでは,鼻器が退縮してこの領域が相対的に小さいため,やはり,吻と呼ぶことはない(ただし,ことばとして〈接吻〉〈口吻〉などがある)。ゾウ,バク,イノシシ,ある種の食虫類などのもつ頭部の前方へ細長く突き出した外鼻のことをとくに〈吻〉と呼ぶが,この場合は無脊椎動物の吻と同じ意味であり,鼻づらのことではない。なお,左右相称で頭部から尾部に貫く体軸をもつ動物体において,頭部前方に突き出した部分を一般に〈吻rostrum〉と呼び,体の前方のことを〈吻方rostral〉という。
執筆者:田隅 本生+原田 英司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物の口またはその周辺から突出する管状構造で、口先、吻管ともいう。無脊椎(むせきつい)動物、脊椎動物ともにみられるが、構造と機能は動物により異なる。無脊椎動物の例として、(1)扁形(へんけい)動物渦虫類の咽頭(いんとう)、(2)ヒモムシ(紐形(ひもがた)動物)の口や口の前方から出入する細長い管状構造(普段は吻鞘(ふんしょう)の内部に収まっているが、攻撃・摂食時に反転して突出する)、(3)環形動物多毛類のうち、遊在類の突出性の咽頭、(4)環形動物ユムシの長糸状の口前葉、(5)半索動物ギボシムシの体の最前端部、(6)昆虫類のうち、吸血・吸蜜(みつ)に用いる管状の口器やゾウムシなどの細長い口端部、などがあげられる。脊椎動物では、(1)ノコギリザメの頭部前端部、(2)ゾウの鼻の外方部などが吻の例である。
[川島誠一郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新