(読み)フン(英語表記)proboscis

翻訳|proboscis

デジタル大辞泉 「吻」の意味・読み・例文・類語

ふん【吻】[漢字項目]

人名用漢字] [音]フン(慣)
くちさき。くちびる。「吻合口吻黄吻接吻

ふん【×吻】

動物の口先。頭部で、目より前方に突出した部分や、口またはその周辺から出て伸縮のできる管状の構造物。象の鼻、昆虫のストロー状の口器など。

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精選版 日本国語大辞典 「吻」の意味・読み・例文・類語

ふん【吻】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 脊椎動物の頭部で、目より前方に突出した上顎より上の部分。無脊椎動物では、口周辺の伸縮しうる管状構造物。
  3. 口の両端のくぼんだところ。〔解体新書(1774)〕

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普及版 字通 「吻」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 7画

(異体字)
11画

[字音] フン
[字訓] くちさき・くちびる・ことばつき

[説文解字]

[字形] 形声
声符は勿(ふつ)。勿に刎(ふん)の声がある。〔説文〕二上に「口邊なり」とあり、唇(くちびる)の両辺、すなわち口角をいう。また語気を口吻、議論好きの男を吻士、両口相合するを吻合という。字はまたに作る。唐・白居易の〔奈何(いかん)ともすべき無き歌〕に「靜かなれば則ち然として陰と迹を合す」の句があり、の字を用いている。〔説文〕の重文をあげており、はその俗字である。

[訓義]
1. くちさき、くちわき。
2. くちびる、上下のくちびる。
3. ことばつき、いいかた。

[古辞書の訓]
名義抄〕吻 クチサキラ・クチワキ 〔字鏡集〕吻 サキラ・イハク・クチサキラ・クチハシ・クチワキ・ツイバム・クチビル・カタル・クチサキ

[熟語]
吻禁・吻合・吻士吻儒・吻唇・吻吮吻創・吻別・吻流
[下接語]
渇吻・苦吻・決吻・健吻・虎吻・鼓吻・口吻・香吻・黄吻・觜吻・鴟吻・傷吻・唇吻・接吻・舌吻・怒吻・揺吻・利吻・裂吻

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改訂新版 世界大百科事典 「吻」の意味・わかりやすい解説

吻 (ふん)
proboscis

動物の頭部,とくに口付近にあって,突出していたり伸縮できたりする部分を,吻と呼ぶことが多い。さまざまな構造のものがあるが,多くは摂食と運動に用いられ,寄生性の種類では付着,せん孔する働きをする。半索動物の吻は口の前方にある前体部といわれる部分で,前体腔を包んで筋肉が発達し,伸縮して砂泥中にもぐり込むのに役立つ。動吻類,線形虫類,コウトウチュウ類,エラヒキムシ類などの吻は,先端に口をもった体前端部で,後方の体内に引っ込めることができ,表面には一般に大小のとげがある。ホシムシ類の吻も口に続く体前端部が伸長したものであるが,これは口が体内へ落ち込むように裏返しになって引っ込められるので,陥入吻introvertと呼ばれる。ユムシ類の吻は,体の前端の口の周囲が溝状に突出,伸長したもので,体内に引っ込めることはできない。ウミグモ類の吻は,前体部の頭部腹面から口の部分が筒状に突出したもので,中には咽頭に相当する吸囊がある。昆虫類,蛛形(ちゆけい)類にも口の部分が吻状の突出を形成するものがある。腹足類の吻は,口の部分が伸縮できるような管状になったもので,中に口腔,歯舌がある。扁形動物,多毛類,ヒル類などでは,口腔や咽頭が口から外へ反転して突き出せるようになっているものがあり,これも吻と呼ばれる。昆虫類の吻管haustellumなどで構成される吸型口器も吻といわれ,これは口部の付属肢が変形したものである。いずれもさまざまなやり方で主として食物を取り込む働きをする。ひも形動物の吻は独特の構造をもつ器官である。それは,頭部体表あるいは口腔内に開口する細長い盲管で,盲端にとげ針をもつものもあり,体液で満たされた吻体腔の中に収納されている。吻体腔を包む吻鞘(ふんしよう)が収縮すると体液の圧力で盲管が反転してひも状に伸び出し,餌生物に粘着したり毒液を注入したりして食物を捕らえる働きをする。

 脊椎動物では〈鼻づらsnout〉のことを〈吻〉と呼ぶが,これは両眼の直前付近から頭部の前端までの領域を漠然と指す。もともと〈吻〉の字は〈くちさき〉を意味するから,口裂や唇は吻の一部とみてもよいが,下顎はふつうこれに含まれない。通常は鼻(鼻腔を含む)がこの領域の中心部をなすが,サメエイのように鼻が吻の下面に位置することもある。鳥類ではこの部分は必ずくちばしになっているので,ふつう,吻とは呼ばない。またヒトでは,鼻器が退縮してこの領域が相対的に小さいため,やはり,吻と呼ぶことはない(ただし,ことばとして〈接吻〉〈口吻〉などがある)。ゾウ,バクイノシシ,ある種の食虫類などのもつ頭部の前方へ細長く突き出した外鼻のことをとくに〈吻〉と呼ぶが,この場合は無脊椎動物の吻と同じ意味であり,鼻づらのことではない。なお,左右相称で頭部から尾部に貫く体軸をもつ動物体において,頭部前方に突き出した部分を一般に〈吻rostrum〉と呼び,体の前方のことを〈吻方rostral〉という。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吻」の意味・わかりやすい解説


ふん

動物の口またはその周辺から突出する管状構造で、口先、吻管ともいう。無脊椎(むせきつい)動物、脊椎動物ともにみられるが、構造と機能は動物により異なる。無脊椎動物の例として、(1)扁形(へんけい)動物渦虫類の咽頭(いんとう)、(2)ヒモムシ(紐形(ひもがた)動物)の口や口の前方から出入する細長い管状構造(普段は吻鞘(ふんしょう)の内部に収まっているが、攻撃・摂食時に反転して突出する)、(3)環形動物多毛類のうち、遊在類の突出性の咽頭、(4)環形動物ユムシの長糸状の口前葉、(5)半索動物ギボシムシの体の最前端部、(6)昆虫類のうち、吸血・吸蜜(みつ)に用いる管状の口器やゾウムシなどの細長い口端部、などがあげられる。脊椎動物では、(1)ノコギリザメの頭部前端部、(2)ゾウの鼻の外方部などが吻の例である。

[川島誠一郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吻」の意味・わかりやすい解説


ふん
proboscis

動物の口の付近から伸びる管状構造をいう。動物によってその形や構造,機能はさまざまである。無脊椎動物では一般に筋肉質の中空器官で触覚器として働く場合が多く,紐形動物では武器として,キボシムシなどは穴掘り道具として,またある種の寄生虫では宿主の腸壁に固着するのに用いられている。昆虫ではカやブユ (双翅類) ,カメムシ (半翅類) などの吸うために変形した下唇部を吻または吻管という。哺乳類では鼻先がこれにあたり,鋭敏な触毛を有する場合が多い。特に発達しているのはゾウのいわゆる鼻で,物を握ったりする役目も果している。

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百科事典マイペディア 「吻」の意味・わかりやすい解説

吻【ふん】

一般に動物の口や口辺にあって突出した伸縮性の構造をいう。自己防御,攻撃,摂食,感覚,運動など,機能や構造は動物により異なる。渦虫類の咽頭(いんとう),紐(ひも)虫類の前端部の管状構造,ある種の条虫の頭節にある固着器,昆虫の管状口器,またゾウムシなどの口端部,ギボシムシの体の最前端部,哺乳(ほにゅう)類の突出した口部,ゾウの鼻など。

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