日本大百科全書(ニッポニカ) 「テングノタチ」の意味・わかりやすい解説
テングノタチ
てんぐのたち / 天狗太刀
unicorn crestfish
unicornfish
[学] Eumecichthys fiski
硬骨魚綱アカマンボウ目アカナマダ科に属する海水魚。北海道函館(はこだて)沖、佐渡島(さどがしま)、京都府伊根(いね)、島根県隠岐(おき)と岡見(おかみ)、山口県萩(はぎ)、五島灘(ごとうなだ)などの日本海および、八丈島、紀伊半島南西岸、土佐湾、鹿児島県笠沙(かささ)などの太平洋の日本各地沿岸域、南アフリカ南端のカルク湾からとれているが、非常に珍しい種である。体は著しく細長く、側扁(そくへん)した紐(ひも)状で、体高は後方に向かってすこしずつ低くなる。肛門(こうもん)は体の後端近くに開く。頭の前端部は著しく突出し、本種の和名の元になった天狗の鼻をイメージさせる。目は突出部の基底に位置する。口は目の下部に開き、突出させることができない。口は小さくておよそ眼径に等しい。背びれは前頭の突出部の先端から始まり、第1軟条は長くて太く、後縁によく発達した鰭膜(きまく)がある。第1軟条の直後から短い背びれ軟条が始まり、尾びれの基部まで達して、体の全背面を占める。軟条数はきわめて多く、およそ300~400本ある。臀(しり)びれは小さくて尾びれの直前に位置し、軟条数は5~9本。胸びれは小さく、腹びれはない。尾びれも小さく、もっとも下の軟条は太くて強く、先端部は鰭膜を欠く。体には鱗(うろこ)がなく、銀粉で覆われる。体は銀白色で、側面に多数の濃淡のある淡褐色の鞍状斑(あんじょうはん)がある。背びれと尾びれは赤橙(せきとう)色。立ったときに前側になる腹びれがなく、さらに前になる臀びれもきわめて退化していることから、外洋の中層域でタチウオのように立ち泳ぎをしていると考えられている。全長は1.5メートルほどになる。詳しい生態は知られていない。とれたほとんどの個体は定置網にかかったり、海岸に漂着したりしたものである。
[尼岡邦夫 2022年12月12日]