翻訳|denomination
英語のdenominationは銀行券や鋳貨などの貨幣単位の名称を意味するが,日本でデノミネーション(デノミと略称することが多い)は貨幣単位の呼称を一定割合引き下げて新しい貨幣単位に改める意味に使われている。たとえば100円を新1円に変更することで,為替相場も1米ドル=220円から新2円20銭となる。この場合,金銭債権・債務(預金・株式・債券など),商品・サービス価格,地代・家賃・貸借料,俸給・賃金,租税などすべてが1/100に切り下げられる。このデノミは,インフレが進行した結果,商品などの表示価格が著しく大きくなり,計算や支払,記帳が不便となった場合に,インフレのいわば後始末として実施されるものである。したがってデノミは,貨幣単位の変更が現金通貨の単位のみならずいっさいの貨幣計算にも適用されるから,価値関係にはなんらの変化も生ぜず,まったく名目的な計算上の変更にすぎない。
デノミの歴史上著名な例は第1次大戦後のソ連とドイツ,第2次大戦後のフランスである。ソ連は1922-24年の通貨改革によって3回にわたってデノミを実施し,その結果,24年3月発行の紙幣1ルーブルは1921年以前の旧紙幣500億ルーブルになった。ドイツは23年11月レンテン銀行券(レンテンマルクRentenmark)を発行,これを1兆マルク券と交換して超インフレを奇跡的に収束した(いわゆる〈レンテンマルクの奇跡〉)。そして24年8月の貨幣法でライヒス・マルク表示のライヒス銀行券(ライヒス・マルク)を発行してレンテン銀行券を回収した。またフランスは58年12月,フランの17.55%切下げ(1米ドル=420フラン→493.706フラン)を実施するとともに,100フランを1フランとする新貨幣単位(重フラン,新フラン)の採用を決定,1年の準備期間を経て60年1月に実施した。
このようにデノミは,インフレに区切りをつけるために実施されるものであるから,その効用として,(1)デノミによって貨幣表示のけた数が小さくなり,国民の日常の貨幣計算は容易になること,(2)貨幣1単位の価値は逆に大きくなり,国民の貨幣に対する信頼は高まること,(3)自国通貨の対外為替相場の表示がけたの少ない数字になること,などがあげられる。デノミは経済の実体活動に直接関係はなく(ただし実施にあたっては巨額の費用がかかる),インフレの後始末としてはむしろ必要な措置である。しかし,国民に動揺を与えずにデノミを実施するには,国民にその意味と効果を説明し,物価が安定している時期を選び,しかも新券の製造を含めて相当の準備期間をおいて実施することが必要である。そのような慎重かつ細心さをもって行わないと,インフレの引金になるおそれなしとしない。
なお,デノミネーションと混同しやすいものにデバリュエーションdevaluation(平価切下げ)がある。これは為替相場に関係しデノミとは別個の問題であるが,フランスの例のように同時に実施されることもある。
執筆者:石田 定夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
本来は貨幣単位の呼称を意味するが、今日では貨幣単位の呼称を、たとえば100分の1とか1000分の1に切り下げて新しい名称にかえることをいう。したがって、デバリュエーションdevaluation(平価の切下げ)とは本質的に異なっている。
デノミネーションは、超インフレーションにより貨幣単位が大きくなりすぎたとき、日常計算のためや対外的な威信のために実施されることが多い。たとえば、第一次世界大戦後には、1923年にドイツが1兆マルクを1レンテンマルクに、1925年にオーストリアが1万クローネを1シリングにしており、また第二次世界大戦後にも、1960年にフランスが100旧フランを1新フランに、1961年にソ連が10旧ルーブルを1新ルーブルへとかえた例がある。その後もデノミネーションを実施した国はいくつかあるが、最近の事例としては、ジンバブエが異常なインフレーションにより、2008年8月に100億旧ジンバブエ・ドルを1新ジンバブエ・ドルにし、さらに翌2009年2月に1兆旧ジンバブエ・ドルを1新ジンバブエ・ドルにかえたことや、北朝鮮が2009年11月に100旧ウォンを1新ウォンにかえたことなどがあげられる。
デノミネーションは、貨幣価値を切り下げるのではないから、貨幣単位で表示される物価、賃金、債権・債務などの関係は変わらないが、単位の呼び方が一律に切り下げられるため、小額端数をどうするかが問題となる。また、株価は物的資産を代表するからということで、デノミネーションの際には株式への選好が強まることもある。ともかく、心理的な錯覚による混乱が生ずることがあるので、これを実施するには、経済が安定している時期を選び、また事前に国民に対して十分な説得をすることが必要であるといわれる。
[石野 典・前田拓生]
『吉田春樹・今田寛之著『図解 デノミネーション』(2000・東洋経済新報社)』▽『宮田喜代蔵著『デノミネーション』(日経文庫)』
宗教組織の一形態を示す学術的用語。通文化的あるいは常識的には、その組織や教学の特徴・形態を問わず、成熟しかつ安定した宗教集団(教団や会派)を、広くデノミネーションとよんでいる。狭義的には、すなわち宗教社会学や教会史においては、より厳しく、当の社会に国教会や公認教会のあるなしにかかわらず、実質的に信仰の自由と政教分離が守られている先進諸社会において、組織上、教学上、独立した特質を維持し、平等に伝道や布教において競合する、多様な宗教集団個々を示す用語である。
学問的語源としては、ニーバーH. R. Niebuhrのキリスト教会の分類があげられるが、大小を問わずその特徴を維持して信徒獲得に競合するアメリカ型の教会を、彼はデノミネーションとよんだ。国教会や公認教会のような特権的教会(チャーチ)と、反抗的な非主流の教会や分派(セクト)が対抗していた近世ヨーロッパに比較すると、当初から各国の移民が持ち込んだ多様な宗派が平等に並立したアメリカでは、早くから信仰の自由、政教分離が憲法において認められており、それぞれにヨーロッパにあった当時のチャーチ的、セクト的な性格を教義や礼拝様式のなかに残しつつも、互いに寛容な成熟した教会として民主的に共存した各教派を彼はデノミネーションと定義したのである。組織論上は、市民が自発的に参加または離脱できる目的的集団ということになっている。
[井門富二夫]
『S・E・ミード著、野村文子訳『アメリカの宗教』(1978・日本基督教団出版局)』▽『ニーバー著、柴田央子訳『アメリカ型キリスト教の社会的起源』(1984・ヨルダン社)』
(2018-8-23)
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