デノミネーション(読み)でのみねーしょん(英語表記)denomination

翻訳|denomination

日本大百科全書(ニッポニカ) 「デノミネーション」の意味・わかりやすい解説

デノミネーション(貨幣単位)
でのみねーしょん
denomination

本来は貨幣単位の呼称を意味するが、今日では貨幣単位の呼称を、たとえば100分の1とか1000分の1に切り下げて新しい名称にかえることをいう。したがって、デバリュエーションdevaluation(平価の切下げ)とは本質的に異なっている。

 デノミネーションは、超インフレーションにより貨幣単位が大きくなりすぎたとき、日常計算のためや対外的な威信のために実施されることが多い。たとえば、第一次世界大戦後には、1923年にドイツが1兆マルクを1レンテンマルクに、1925年にオーストリアが1万クローネを1シリングにしており、また第二次世界大戦後にも、1960年にフランスが100旧フランを1新フランに、1961年にソ連が10旧ルーブルを1新ルーブルへとかえた例がある。その後もデノミネーションを実施した国はいくつかあるが、最近の事例としては、ジンバブエが異常なインフレーションにより、2008年8月に100億旧ジンバブエ・ドルを1新ジンバブエ・ドルにし、さらに翌2009年2月に1兆旧ジンバブエ・ドルを1新ジンバブエ・ドルにかえたことや、北朝鮮が2009年11月に100旧ウォンを1新ウォンにかえたことなどがあげられる。

 デノミネーションは、貨幣価値を切り下げるのではないから、貨幣単位で表示される物価賃金債権・債務などの関係は変わらないが、単位の呼び方が一律に切り下げられるため、小額端数をどうするかが問題となる。また、株価は物的資産を代表するからということで、デノミネーションの際には株式への選好が強まることもある。ともかく、心理的な錯覚による混乱が生ずることがあるので、これを実施するには、経済が安定している時期を選び、また事前に国民に対して十分な説得をすることが必要であるといわれる。

[石野 典・前田拓生]

『吉田春樹・今田寛之著『図解 デノミネーション』(2000・東洋経済新報社)』『宮田喜代蔵著『デノミネーション』(日経文庫)』


デノミネーション(宗教組織)
でのみねーしょん
denomination

宗教組織の一形態を示す学術的用語。通文化的あるいは常識的には、その組織や教学の特徴・形態を問わず、成熟しかつ安定した宗教集団(教団や会派)を、広くデノミネーションとよんでいる。狭義的には、すなわち宗教社会学や教会史においては、より厳しく、当の社会に国教会や公認教会のあるなしにかかわらず、実質的に信仰の自由と政教分離が守られている先進諸社会において、組織上、教学上、独立した特質を維持し、平等に伝道や布教において競合する、多様な宗教集団個々を示す用語である。

 学問的語源としては、ニーバーH. R. Niebuhrのキリスト教会の分類があげられるが、大小を問わずその特徴を維持して信徒獲得に競合するアメリカ型の教会を、彼はデノミネーションとよんだ。国教会や公認教会のような特権的教会(チャーチ)と、反抗的な非主流の教会や分派(セクト)が対抗していた近世ヨーロッパに比較すると、当初から各国の移民が持ち込んだ多様な宗派が平等に並立したアメリカでは、早くから信仰の自由、政教分離が憲法において認められており、それぞれにヨーロッパにあった当時のチャーチ的、セクト的な性格を教義や礼拝様式のなかに残しつつも、互いに寛容な成熟した教会として民主的に共存した各教派を彼はデノミネーションと定義したのである。組織論上は、市民が自発的に参加または離脱できる目的的集団ということになっている。

[井門富二夫]

『S・E・ミード著、野村文子訳『アメリカの宗教』(1978・日本基督教団出版局)』『ニーバー著、柴田央子訳『アメリカ型キリスト教の社会的起源』(1984・ヨルダン社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「デノミネーション」の意味・わかりやすい解説

デノミネーション
denomination

本来の意味は通貨単位の呼び名であるが,現在ではその呼び名を変更することをいう。たとえば 1000円を新1円とか1両に変更することで,変更後の呼び名の桁数は変更前より小さい。デノミネーションはインフレーションによって金額の表示が膨大となり,計算,記帳,支払いなどが不便になった場合,この不便を取除くために行われる。

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